研究課題/領域番号 |
26340036
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研究機関 | 神奈川県立保健福祉大学 |
研究代表者 |
岩崎 俊晴 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 教授 (80375576)
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研究分担者 |
鯉淵 典之 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80234681)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 甲状腺ホルモン / 環境化学物質 / 脳発達 / コファクター |
研究実績の概要 |
本研究では、脳発達における甲状腺ホルモン(TH)及びTH受容体(TR)の影響を解析し、THの脳発達期における化学物質等の影響が成人期にどのような影響をもたらすか解析し、その予防及び、治療に応用するための基礎研究を行うことを目的とする。THは協調運動・認知・記憶・学習といった脳機能と密接に関連した脳部位の発達に重要である。本研究では、 (1) 環境化学物質の脳発達期への影響のスクリーニング系の構築を含めた初代培養系を用いた解析、(2) 甲状腺機能低下モデル動物を用いた解析、(3) (1)(2)の解析結果と近年同定した新規cofactorsの解析、(4) (1)に関連して天然のホルモン様作用を示す物質である大豆ポリフェノールを用いた解析を行った。 (1)については既に構築済みの系を用いて、環境化学物質に加え、造影剤に用いられる化学物質について解析した。また、線条体及び海馬の初代培養系を構築し、解析を行っている。(1)におけるperfluorooctanesulfonate (PFOS)を用いた研究では周産期における母親のPFOSの経口曝露により、子が成獣になっても小脳機能が低下していることが分かった。この機序はPFOSによるアストロサイトにおける2型脱ヨウ素酵素に対する抑制が原因であることが分かった。 (2)変異TRを小脳Purkinje細胞特異的に発現するマウスを用いてTHの発達期小脳における作用を解析し、Purkinje細胞におけるTRの異常により顆粒細胞や稀突起神経膠細胞におけるTHシグナル系にも影響を及ぼすことが分かった。 (3)既に同定したbrain-derived repressive molecule(B-ReM)の培養細胞に対する影響を解析し、細胞増殖に影響を及ぼすことが分かった。(4)脳発達期における甲状腺系の低下に対する予防及び、治療につながる結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 環境化学物質の脳発達期への影響のスクリーニング系の構築を含めた初代培養系を用いた解析では、小脳、線条体及び海馬における初代培養系を確立し、環境化学物質の解析を行っている。また、PFOSを用いた解析では、小脳初代培養系におけるPurkinje細胞の樹状突起の伸長の抑制は脱ヨード酵素の抑制であるという新たな知見が得られた。この知見は環境化学物質がTRを介する転写系のみでなく、2型脱ヨウ素酵素にも影響するという意味で新たな経路の抑制ということができる。 (2) 甲状腺機能低下モデル動物を用いた解析では結果をまとめ、公表することができた。今まで小脳の発達にはTRalphaが重要であると考えられてきたが、TRbeta1も重要であることが分かり、さらに、Purkinje細胞における変異TRの過剰発現により、Purkinje 細胞のみならず、顆粒細胞や稀突起神経膠細胞におけるTHシグナル系にも影響を及ぼすことが分かった。これらの結果、小脳発達全体が遅れることが分かり、甲状腺機能低下に類似した小脳組織の発達遅延が起こることが分かった。(3) (1)(2)の解析結果と近年同定した新規cofactorsを解析した結果、新たな知見が得られた。(4) (1)に関連して天然のホルモン様作用を示す物質である大豆ポリフェノールを用いた解析を行ったところ、ゲニスタイン及びダイゼインによりTRを介する転写を増強するばかりでなく、小脳初代培養においてPurkinje細胞の樹状突起の伸長を増強することが分かった。また、その機序は転写コアクチベーターのTRへの結合を増強するためであることが分かった。このことから、食品成分により脳発達期における甲状腺系の抑制状態の予防や治療に応用できる可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 環境化学物質の脳発達期への影響のスクリーニング系の構築を含めた初代培養系を用いた解析では、引き続き環境化学物質の脳発達期における甲状腺系への影響を解析する。(2) 甲状腺機能低下モデル動物を用いた解析については、できたら環境化学物質やポリフェノールの影響を解析したい。(3) (1)(2)の解析結果と近年同定した新規cofactorsの解析をさらに進め、in vitro及びin vivoにおける機能を解析する予定である。(4) 天然のホルモン様作用を示す物質である大豆ポリフェノールを用いた解析をさらに進め、その作用機序やTRにおける責任部位を解析していく予定である。また、甲状腺ホルモン系は脂質代謝にも影響を及ぼすことが考えられたため、代謝症候群や脂質代謝への影響を合わせて解析したい。また、甲状腺系を刺激する食品成分は大豆ポリフェノールのほかにも存在すると考えられるため、新たな物質を解析していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は申請者の研究拠点が群馬大学から神奈川県立保健福祉大学に異動となったため、研究時間が十分確保できなかった。また、科学研究費補助金以外の研究費を使用したため、予定した研究資材を全て購入することなく、新年度を迎えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度に使用しなかった分の研究費は今年度使用する予定。新たな研究室における立ち上げを含むため、蛋白実験関連の研究費や動物関連の研究費用が多くなる予定。また、新しい大学では放射性同位元素(RI)を使用する施設がないため、これらを利用する実験は施行しえない。また、利用できる研究資源に限りがあるため、共同実験のための出張旅費等が生じる予定である。
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