研究課題/領域番号 |
26340038
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和田 忠士 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60262309)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エストロゲン / eRNA / エンハンサー / 合成エストロゲン / マウス / 遺伝子発現 / プロモーター |
研究実績の概要 |
合成エストロゲンであるDESをマウス新生仔に過度に投与すると、成熟期のマウス膣上皮部分の肥厚化を代表とする異常が再現性良く観察される。これは、個体発生のかなり初期段階で個々の細胞の運命が決定されることを反映するものであり、本ケースではDESが細胞の運命決定に影響を与え、その制御を乱したことに起因すると推察される。特にDESによる過度な刺激は、ゲノムのエピジェネティックスイッチに影響を与え、ポジティブフィードバックループからなる調節サーキット形成やクロマチンの物理・化学的な変化を引き起こすのではないかと考えた。本研究では、新生仔期の合成エストロゲン(DES)暴露が膣上皮組織においてエストロゲン依存性の消失を招く分子機構の解明にチャレンジしている。前年度に引き続き平成27年度はDES暴露で発現が変化するエンハンサーRNA(eRNA)にフォーカスし、研究を進めた。eRNAはエンハンサーとプロモーターを接近させるようなクロマチンのループ構造の形成を促進する機能を有しており、標的遺伝子の活性化、すなわちプロモーター領域からのmRNA合成量の増加に関与していると考えられる。前年度の成果として、ヒト乳がん由来の培養細胞MCF-7でエストロゲン依存的発現誘導が観察されるFOXC1とCA12に対するeRNAの発現がDES処理でも上昇することがわかっていたので、マウスFoxc1とCar12のeRNAを研究対象として本年度も実験を実施した。生まれた直後のマウスにDESを1回あるいは1日ごとに計5回投与し、生後17日目と70日目(56日目で卵巣を除去することで体内のエストロゲンの影響を減弱した)の子宮と膣からRNAとタンパク質をそれぞれ回収した。RT-PCR法でFoxc1とCar12に対するmRNAやeRNAの発現を解析した。また、DES刺激による膣上皮細胞のタンパク質リン酸化状態の変化に関してウエスタンブロット法により解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生後17日目と70日目の個体から子宮と膣を回収し、RNAを抽出してRT-PCR法によりFoxc1とCar12のmRNAおよびeRNAの発現解析を実施した結果、Car12に関しては膣由来のRNAで両日付けの個体ともにDES処理によるmRNAおよびeRNAの発現変化が認められた。しかし、子宮ではコントロールと比較して顕著な差が観察されなかった。一方、Foxc1に関してはDES処理していないものと処理したもので、ほとんど差は観察されなかった。また、ウエスタンブロット法によるタンパク質リン化レベルの解析では、70日目の膣由来のタンパク質でエストロゲン受容体(ER)のリン酸化が未処理のサンプルに比較するとわずかに亢進しているように見えた。Srcタンパク質に関しても同様の解析を実施した。その結果、2個体を使って実験すると、1個体のみでわずかにDES処理でSrcタンパク質のリン酸化レベルが上昇しているように見えた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、平成27年度の結果の再現性を取るために新しい個体で実験を遂行中である。ここまで、計画通りに進展している、今後も当初の実験計画に従って研究を実施する予定である。また、平成27年度に解析を予定していたmiRNAに関する発現解析が、タンパク質の解析とeRNAの解析に時間がとられて実施できなかった。すでにmiRNAの解析に必要なRNAサンプルは準備できているので、それを用いて平成28年度は実験を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に従って予算を適切に使用したところ、523円の残額となった。少額のため次年度に回し、次年度予算と合致させてより有効に使うことを考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画に沿って、マウスの飼育に必要な餌の購入の一部として使用する予定である。
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