マウス新生仔に合成エストロゲン diethylstilbestrol (DES)を過度に投与すると、成熟期の膣上皮部分の肥厚化が再現性良く観察される。これは、個体発生のかなり初期段階で個々の細胞の運命の方向付けがなされることを示唆し、DESが細胞の運命決定に影響を与え、その結果、その制御が乱れたことによるものと考えられる。本研究では、新生仔期の合成エストロゲン(DES)暴露が膣上皮組織においてエストロゲン依存性の消失を招く分子機構の解明にチャレンジした。
今年度は、関与が疑われるエンハンサーRNA(eRNA)の解析を行う目的で、新生仔期にDES暴露したものとコントロールとしてオイルで暴露した生後60日目のマウスの膣を回収し、そこから全RNAを抽出してCAGE(Cap Analysis of Gene Expression)解析を実施した。結果が複雑であるため、解析は継続中である。また、1)前年度DES処理でSrcに量的および質的変化が見られたこと、2)DESが炎症反応の惹起に関わるハプテンとして働く可能性が考えられたので、炎症性サイトカインの発現変化を定量PCR法で解析した。その結果、DES処理でTNF-αやIL-6の発現上昇を示す結果が得られた。Cox-2の発現上昇も認められたことから、炎症反応に深く関与する転写因子NFκBの活性化が、DES依存的に生じていることを考えている。
以上まとめると、新生仔期のDES暴露はSrcの活性化を促し、それに続くNFκBの活性化が誘導され、最終的にがん化へ移行しているのではなかろうか。これにより、細胞の運命決定の制御が乱れたように観察されるのではなかろうか。
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