研究課題/領域番号 |
26340043
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
加藤 善久 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (90161132)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 甲状腺ホルモン撹乱 / サイロキシン / PCB / 小腸 / グルクロン酸抱合酵素 / ラット / Kanechlor-500 / ヒト |
研究実績の概要 |
本研究では、新たに提唱した血中T4濃度低下作用メカニズムの本質となるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体を解析することおよびPCBの血中サイロキシン(T4)濃度低下作用機構の全貌を解明することを目的としている。 今回、ラット及びヒト腸ミクロソームのT4のグルクロン酸抱合反応の解析を行い、腸のUDP-GTのT4のグルクロン酸抱合への関与を検討した。ラット十二指腸、空腸及び回腸ミクロソームには、UGT1A2、UGT1A1及びUGT1A7の発現が認められた。また、ラット十二指腸、空腸及び回腸ミクロソームにおいてT4-UDP-GT活性が認められ、Kanechlor-500(KC500) (100 mg/kg)の投与により、十二指腸及び空腸の活性は有意に増加した。これらの結果から、ラット十二指腸、空腸におけるT4の代謝にUDP-GTが関与していること、またKC500によりその酵素活性が誘導されることが示された。 ヒト腸におけるT4の代謝に関する報告は少なく、そのT4の代謝を担うUGT分子種も明らかにされていない。そこで、ヒト腸ミクロソームを用いて検討加えた。ヒト腸ミクロソームにおいてUGT1Aの発現が認められ、この発現量はヒト肝よりも高かった。また、ヒト腸ミクロソームにおいてT4-UDP-GT活性が認められた。さらに、ヒト腸ミクロソームのT4-UDP-GT活性とUGT1A1、UGT1A8及びUGT1A10の基質であるエストラジオール3位グルクロン酸抱合酵素活性との間に相関関係が見られる傾向があった。 以上、ヒトのT4のグルクロン酸抱合には小腸のUDP-GTも関与していること、そのUGT分子種はUGT1A1、UGT1A8、UGT1A10である可能性が示唆された。PCBのT4濃度の低下作用メカニズムの一因としてさらに検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに、PCBの血中T4濃度の低下は、主に肝臓へのT4の蓄積量(移行量)の増加に起因していることを明らかにし、丹念に実験データを積み上げることにより、このT4濃度の低下作用メカニズムを新規セオリーとして提唱した。さらに、肝臓へのT4の蓄積量(移行量)の増加には何らかの甲状腺ホルモントランスポーターが関与していること、またPCBによる血中T4濃度の低下において、この増加の寄与率は、核内レセプターに結合するPCBのタイプによって異なることを示した。 そこで、昨年、甲状腺ホルモンの血管側細胞膜から肝実質細胞への取り込みにおいて、トランスポーターの関与の検討に着手した。KC500をラット、TCDDに高感受性マウス、TCDDに低感受性マウス、モルモット、ハムスター及び遺伝子組み換え動物(甲状腺ホルモン濃度の低下のカギになる酵素やタンパク質、甲状腺ホルモントランスポーターを欠損させた動物)に低用量連続投与を行い、KC500投与後のラットにおける肝実質細胞へのT4の取り込み量の増加に、肝臓のL型アミノ酸トランスポーター、LAT1及び有機アニオン輸送ポリペプチド、Oatp2のmRNAの発現量の増加が関与している可能性を示唆した。 今回、ラット及びヒト腸ミクロソームのT4のグルクロン酸抱合反応の解析を行ったところ、ラット十二指腸、空腸におけるT4の代謝にUDP-GTが関与していること、またKC500によりUDP-GT活性が誘導されること、さらにヒトのT4のグルクロン酸抱合に小腸のUDP-GTも関与していること、そのUGT分子種はUGT1A1、UGT1A8、UGT1A10である可能性を見出し、PCBのT4濃度の低下作用メカニズムの一因として極めて有用な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
数種のPCB、「油症」の原因となったPCB混合物及びヒトに残留性が高い水酸化PCBを投与した動物を用いて、血中甲状腺ホルモン濃度とともに、甲状腺ホルモンの血管側細胞膜から肝実質細胞への取り込み、肝臓実質細胞からの胆管への排泄及び甲状腺ホルモンの肝臓の蓄積部位の局在性を解析する。さらに、basal側に取り込みトランスポーターを、apical側に排泄トランスポーターを同時に発現させた極性細胞、接着性の宿主細胞にヒトトランスポーターのcDNAを含むベクターを導入した発現細胞及びヒト凍結肝細胞を用いて、PCBによるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体解明を進める。異なるタイプのPCBの血中T4濃度の低下に関わる甲状腺ホルモントランスポーターの寄与率を明らかにし、PCBによるT4濃度低下作用発現メカニズムの動物種差を解明し、ヒトのT4濃度低下作用発現メカニズムに発展させる。また、甲状腺ホルモンの分泌、分解、結合、体内動態などの変動を薬物動態学的及び分子生物学的にin vivoとin vitroで多角的に解析し、相互に関連付けて追求することにより、ヒトでのPCBの血中甲状腺ホルモン濃度低下作用発現メカニズムを解明する。 PCBによる血中T4濃度の低下において提唱した新規メカニズムである肝臓へのT4の蓄積量の増加の要因を、肝臓の甲状腺ホルモンのトランスポーターに焦点を当て、血中甲状腺ホルモン濃度の低下に関わる様々な作用を考え合わせ、遺伝子組み換え動物を巧みに利用した各種実験動物の結果を融合させて統合的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度未使用額が、主として今年度の未使用額になっている。また、今回、ラット及びヒト腸ミクロソームのT4のグルクロン酸抱合反応の解析を行い、腸のUDP-GTのT4のグルクロン酸抱合への関与を検討した。ラット十二指腸、空腸及び回腸ミクロソーム、ヒト腸ミクロソームのUGT分子種の解析及びT4-UDP-GT活性の測定において、ラット肝臓で用いた抗体、試薬及び器具などを利用することができたため、試薬や器具の購入に充てる申請額に未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
実験動物にPCB類を投与した時の血中甲状腺ホルモン濃度、甲状腺ホルモンやそのグルクロン酸抱合体の輸送に関わるトランスポーターの遺伝子及びタンパクレベルでの発現変動、甲状腺ホルモンの各種組織への移行量及び肝臓の部位特異的蓄積性の測定などのin vivo実験、ならびにPCB類を投与した動物に、さらに[125I]T4を静脈内投与し、血中[125I]T4の代謝回転、[125I]T4の組織分布量、[125I]T4の肝臓の部位特異的蓄積性、血中[125I]T4と甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合割合、胆汁中T4のグルクロン酸抱合体の排泄量の測定をするex vivo実験において、研究費は、投与用試薬、実験動物、RI実験用試薬、PT-PCR測定用試薬、ウエスタンブロット用試薬、組織免疫学的検査用試薬、HPLC用カラム、ディスポーザブル器具に充てる。未使用額もそれらの経費に充てて研究を推し進める。
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