研究課題/領域番号 |
26340049
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
牧 輝弥 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70345601)
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研究分担者 |
石川 輝 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (00273350)
青木 一真 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (90345546)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 海洋影響 / エアロゾル / 黄砂 / PM2.5 / 植物プランクトン / 海洋微生物 / 二酸化炭素軽減 / 地球温暖化 |
研究実績の概要 |
研究目的:中国砂漠地域を起源とする黄砂粒子や中国都市部で発生する大気汚染粒子(PM2.5) などの大気粒子(エ アロゾル)に は,無機物(鉱物)や有機物(生物成分)が含まれ,大陸から外洋へと長距離輸送され,その海洋影響評価は極めて重要な課題である。海洋に沈着したエアロ ゾルから溶出した化学成分は,植物プランクトンや細菌などの栄養塩(リンやチッ素など)や必須微量元素(鉄や亜鉛など)となり,その増殖を促す反面,有害金属(Cu, Pbなど)が微生物の増殖 を抑制する場合もある。現在,合衆国と日本の多くの研究グループが,環境実測データ(化学分析,衛生データ等)を使ったモデル計算によるシミュレーションで大気・海洋研究を進めている。 実施内容:これに対し,申請者らの調査研究では,山岳積雪および大気観測の野外調査において,中国から飛来するエアロゾル(黄砂と汚染粒子)の粒子試料を捕集し,太平洋沖合の海水に添加培養する船舶洋上実験を実施することで,黄砂と汚染粒子が海洋微生物へ及ぼす影響を直接検証することを試みた。この結果,大気粒子(特に汚染粒子)から溶出する硝酸・有機物が,植物プランクトン(大型珪藻)の増殖を著しく促進させることが実証された。海洋と気象の条件が揃えば,越境エアロゾルが一次生産者を大きく変動させる潜在的な影響力があると言える。さらに,最先端の遺伝子解析技術である次世代シーケンサーを導入し,「海洋細菌への動態影響」を評価した結果,大気試料を添加した海水では,低栄養細菌が減少し,有機物を分解する細菌群が増殖することが判った。さらに,コンピュータを駆使した解析(バイオインフォマティクス解析)を用いて,海水と大気粒子自体に含まれる微生物(バイオエアロゾル)を解析したところ,膨大未知な細菌群(400種以上)が大気を介して海洋へと沈着し,海水中の微生物群集構造が大きく変化することを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの洋上培養実験で得られた試料の解析を終え、得られた実験データの解析を進め,論文にまとめる段階にある。解析結果は良好であり、「沈着エアロゾルによる海洋微生物が増殖する」という現象を確実に実証することに成功した。すでに,2回分の観測に関する成果は、それぞれの観測単独で,国内学会誌である日本海水学会誌と国際学術誌Deep Sea Research Iに掲載された。ただし,次世代シーケンサーでの解析を導入し、既存の実験データを,コンピュータを駆使して解析(バイオインフォマティクス解析)したところ、遺伝子データが膨大なため,複数回の観測データ(過去6回分)を総括するのに時間がかかり,助成期間内にはまとめきれなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次世代シーケンサーは,従来の遺伝子解析に較べ1000倍から100000倍の遺伝子情報を提供し,海水中の膨大未知な細菌群に関する遺伝子データベースが得られる。主立った細菌種(優占種)については直感的に考察できるが,マイナーな種(非優占種)については,コンピュータを駆使した解析(バイオインフォマティクス解析)で詳細に解析すれば,新たな発見に繋がる。しかも,エアロゾルの移入によって海水へと混入する「大気浮遊微生物」を解析するにも,次世代シーケンサーが有用であり,エアロゾルに含まれる膨大未知な微生物群の理解にも解析が不可欠となる。今後,山岳・大気観測調査および海洋実験調査を続けながら,複数回の観測で収集される膨大な遺伝子データと環境因子データを解析し,「エアロゾルの海洋細菌への動態影響」に関する学術的な一般論を導き出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,春季に立山山岳(富山県)から積雪試料を採取し,実験に使用する必要がある。しかし,平成28年度「日本学術振興会,頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」に,海外派遣者として採択され,昨年春にニュージーランドに長期滞在する必要が生じ,積雪試料を得ることが叶わなかった。そのため,研究の遅延が生じ,平成29年度春季に立山山岳で調査を再度実施し,研究完遂に望む。
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次年度使用額の使用計画 |
立山積雪および海水試料に含まれる微生物の群集構造を解析するため,次世代シーケンス解析費に研究費を主に使用する。
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