研究課題
本研究では、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の観測網を使用し、日本各地のモニタリングサイトにおいて採取された降水中の硫酸イオンについて、発生源同定に有効な硫黄同位体比を測定し、日本における人為発生源由来の硫酸イオン沈着量の時空間変動を明らかにすることを目的とする。前年度に引き続き、EANET遠隔地モニタリングサイト(1月毎 利尻、佐渡、隠岐、辺戸、小笠原、八方、伊自良;2週間毎 東京;季節毎 竜飛、落石)において、降水試料の採取を行い、硫黄同位体比の測定を行った。日本海沿岸のモニタリングサイト(利尻、佐渡関、新潟巻、新潟加治川、隠岐)におけるδ34Snssは(例えば新潟加治川;2±4.9‰)、冬季に高く、夏季に低い、明瞭な季節変化を示した。同様な季節変化は、太平洋側でも観測されたが(東京;-0.73±4.0‰)、その値や季節変動の振幅は、日本海側のサイトと比較して小さかった。日本海側および太平洋側に位置するサイトの降水中硫黄同位体比やその季節振幅の違いは、アジア大陸から越境輸送起源の硫酸イオンに、日本国内発生源由来の硫酸イオンが付加されていることを示唆していると考えられる。山岳サイトである八方(標高1850m)におけるδ34Snssは、ほぼ一定の値(4.7±1.2‰)であった。この値は、石炭や中国エアロゾル粒子のδ34Sと同程度であることから、八方で観測される降水中の硫酸イオンは、地表の日本国内発生源の寄与が少ない、越境輸送由来であるものと考えられた。越境輸送由来の寄与率を推定した結果、日本海沿岸のモニタリングサイトにおける越境輸送由来硫酸イオン沈着量(例えば、新潟加治川1.1-20 mg/m2/day)は、太平洋沿岸域における越境輸送起源硫酸イオン沈着量(例えば、東京0.03-6.7 mg/m2/day)の2-3倍大きいことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
東アジアモニタリングネットワークの観測サイトに設置した降水サンプラーで捕集された降水試料について、試料捕集および硫黄同位体比の分析が進んでおり、順次データが蓄積されている。
引き続き、降水試料の捕集・分析を進めてデータを蓄積するとともに、越境輸送による硫酸イオン沈着量に時間変動・空間変動に着目した解析を進める。また、化学輸送モデルを用いて、越境輸送による硫黄成分沈着量を定量的に評価する。
降水試料の採取は予定通りに実施できたが、研究代表者の異動に伴い、分析機器の使用制限、モニタリングデータ取得に時間がかかった。また、計算機が使えなくなったため、化学輸送モデリングによる解析ができなかった。そのため、十分な解析が行えず、期間延長申請をおこなった。
引き続き、降水試料の採取を継続し、分析・解析を行う。サンプリングにかかる輸送費や、前所属機関及び総合地球研研究所にいって同位体比測定費用(旅費、滞在費、分析機器使用料、分析に係る消耗品費)に使用する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件)
Science of Total Environment
巻: 553 ページ: 617-625
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Atmospheric Environment
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