研究課題/領域番号 |
26340069
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
秦野 賢一 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (20282410)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物修復 / 植物抽出 / 重金属汚染 / 修復技術 / 保全修復技術 |
研究実績の概要 |
植物修復実験では、天日下の簡易グリーンハウスにおいてキカラシナ(園芸種)、農林20号アブラナ(園芸種)、セイヨウアブラナ(野生種)のアブラナ属植物と、暗色物質(DM)、フミン酸、クエン酸、EDTAのキレート剤を用いて植物修復実験を行なった。重金属塩として硝酸鉛と硫酸カドミウムを添加して、各条件での植物検体数を5に増やして栽培期間は2ヶ月間とした。硝酸鉛1 mMの条件においてDMを添加した植物体でのみ濃度依存的に植物体当りの鉛蓄積量が増加した。園芸アブラナのみが、硝酸鉛10 mM添加培地でDMとフミン酸を添加することによって根から吸収した鉛の多くが苗条組織に移動していたが、その他の植物種ではほとんどの鉛は根に蓄積されていることがわかった。まとめると、これら3種の植物種においてDMのみが濃度依存的に個体当たりの鉛蓄積量を増加させることが明らかになった。このように、DMは鉛汚染土壌での理想的な植物修復促進剤として利活用することが期待できる。 DM徐放性シリカゲル作製実験では、有機シリカを任意の割合で混合した無機/有機シリカゲルを作製した。テトラエチルオルトシラン(TEOS)のみ、メチルトリエトキシシラン(MTES)混合、プロピルトリエトキシシラン(PTES)混合ゲルの場合、塩基性触媒を加えた後、約5分、30分そして60分後にゲル化させることに成功した。各シリカキセロゲルのDM徐放特性を評価するために、経時的DM放出グラフから一次そして二次放出量を計算した。100% TEOSゲルと比較すると、有機シリカを混合したゲルでは望ましくないDMの一次放出を抑え、二次放出量を任意に調整することができた。DMの構造中には疎水性領域とカルボキシル基に起因する陰電荷が存在するので、MTESとPTES混合ゲル中の疎水性官能基によってDM徐放性が抑えられたと推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物修復に関しては各条件の個体数を昨年度の1から5連に増やして有意差を議論できるようにして、DMだけでなく種々のキレート剤を添加した実験も同時に行なうことができた事は評価できる。硝酸鉛の添加濃度に関しては、DMの植物修復の促進特性を様々な角度から議論できたが、硝酸鉛と同濃度に設定した硫酸カドミウムに関しては、1そして10 mMともに一部のDMとクエン酸添加条件を除いて早々と全個体が枯死してしまったために有意義な議論を行なえなかった事は今後の課題となった。 徐放性ゲルに関してだが、昨年度確立した酸性触媒と塩基性触媒を両方用いる新作製法に幾つかの有機シリカを混合してゲル化することに成功した事は大いに評価できる。しかし、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)混合ゲルの場合、酸性触媒の添加前にAPTESを混合した段階でゲル化してしまった。おそらく、有機シリカ中のアミノプロピル基が塩基性触媒として働いてしまったと思われる。そのため、TEOS/APTES混合シリカゲルの場合は、触媒を添加しない条件でゲル化したものの徐放特性を調べた。 徐放性は、乾燥させたキセロゲルに超純水を5 ml加えて浸漬液中に放出されたDM量を420 nmにおける吸光度で追跡することで評価した。植物修復実験への応用を想定して毎日0.2 mlずつ浸漬液を交換して吸光度測定を行なったが、実際の栽培培地ではゲルからのDMの徐放特性がどうなるのか今後、検証実験が必要となると思われる。TEOS/APTES混合ゲルではDMの一次放出量(1日目)そして二次放出量(6-20日目)が大きく抑えられることがわかり、実際に植物修復への使用があまり意味をなさない事が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はアブラナ属のアブラナの野生種と園芸種の植物修復能力を調査することができたが、カラシナの方は野生種のセイヨウカラシナの種子を採集することができなかったので、今後是非ともセイヨウカラシナの植物修復実験を同様に行ない、アブラナ属での植物修復能力のデータベースを完成させたい。また、カドミウムは鉛と比べてアブラナ属にとって非常に毒性が高いことがわかったので、DMの植物修復の促進効果が明確となるような最適なカドミウム濃度を調べることを予定している。今年度の成果より、硝酸鉛添加培地においてはクエン酸とEDTAを添加した条件では有意な植物修復の促進効果が確認できず、逆に阻害効果が見られた。今後は、植物修復の有意な促進効果が確認できたDMのみを用いた植物修復実験を行なうことにする。 徐放性シリカゲルに関してだが、まずはDMの一次と二次放出量が他の有機混合シリカゲルと比べて圧倒的に大きかった無機シリカTEOSのみで作製したDM含有キセロゲルを用いて植物修復実験を行なう予定である。また現時点ではゲル化の問題から、直径1 cm強のゲル錠剤に5 mgのDMしか含有できていない。これでは最大DM濃度条件500 mg/Lを達成するためには、1ポットに6つの錠剤を添加しなくてはならず非常に手間がかかり現実的ではない。最終年度には、1ポットに1つの錠剤を加えればいいように、錠剤当りのDM含有量を増やすために最適なゲル化条件を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を希望した時点では実験機器(pHメータ)を買う予算が残っていなかったので、残額は次年度に引き継いだ。
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次年度使用額の使用計画 |
残額と次年度の予算を合わせた次年度初めに、希望する機器を購入する予定である。
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