研究課題
本研究では、共生クロレラを持つ原生動物が示す金属元素の蓄積機構とその生物学的意義について解析している。これまでの研究により、セシウムは共生クロレラを細胞内に持つミドリゾウリムシの細胞内に蓄積されることはわかっていたが、細胞内のどこに蓄積するのかはわかってなかった。そこで、平成27年度は、セシウムを結合させたカオリン粒子(擬似的土壌顆粒)をミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria Kb-1株)に捕食させ、経時的に細胞を固定し、樹脂包埋の後に超薄切片を作製し、STEM透過型電子顕微鏡を用いたEDS法による元素マッピングを行い、セシウムの細胞内での移動経路を探った。その結果、セシウムはミドリゾウリムシの細胞内の共生クロレラ内の油滴顆粒(lipid droplets)にいったん蓄積された後に、ホストのミドリゾウリムシの細胞内に存在する油滴顆粒へと移行していくことがわかった。また、ミドリゾウリムシの無菌培養系の改良も行った。培地の成分を細かく検討することで、より効率の高い、低コストの培養法を検討したところ、従来の約1/20の単価で作製できる新しい培養液を開発することに成功した。この培養液を用い、約1週間で3,000 cells/mLの細胞を得ることができた。さらに、エサのクロロゴニウムについても検討を行った。その結果、従来用いていたChlorogonium elongatum種よりもChlorogonium capillatum種のほうが約1.5倍の収量のミドリゾウリムシを得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
27年度の研究で見出されたセシウム蓄積の局在解析から、油滴顆粒を介したセシウム輸送の経路が存在することを示しており、ミドリゾウリムシにおけるセシウム蓄積における共生クロレラの重要性を改めて示す結果として重要な成果である。また、ミドリゾウリムシの無菌培養法の効率化・低価格化により、セシウム汚染土壌の処理法としてのミドリゾウリムシの利用法が具体的に利用可能な方法の一つであることが今回の研究により実証できた。
当初の研究計画は、共生クロレラにセシウムが蓄積されていることを想定して策定された。しかし、これまでの研究により、セシウムはクロレラ内の油滴顆粒に蓄積された後に何らかの方法でミドリゾウリムシの細胞にある油滴顆粒に移行することがわかった。今後の研究では、クロレラとミドリゾウリムシの両者における油滴顆粒へセシウム蓄積の仕組みについて検討を進めていく。そのため、今後の具体的な研究計画としては、クロレラとミドリゾウリムシの両者から油滴を単離し、そこに含まれるタンパク質についてプロテオーム解析を行うことで、セシウム蓄積の分子機構に迫りたい。プロテオーム解析に関しては、既に作成済みのミドリゾウリムシのmRNA-Seqによる発現タンパク質の配列データベース及びゲノムのわかっているクロレラNC64A株のゲノムデータを利用する。さらに、ミドリゾウリムシを土壌懸濁液から効率よく分離・回収する装置の開発も行っていく。既にプロトタイプ装置の実証試験により、走電性を用いたミドリゾウリムシの分離が可能であることがわかっているので、今後は分離装置の試作機を作製し、これを使った実証試験を行う予定である。
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10.1016/j.neulet.2015.06.025