研究課題/領域番号 |
26340079
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
清水 昭夫 創価大学, 理工学部, 教授 (20235641)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高静水圧 / 微細構造 / 洗浄 / 付着樹脂 / 加圧処理 |
研究実績の概要 |
微細構造の洗浄は今後ますます重要になると考えられ、静水圧処理による洗浄を提案している。微細構造の除去には様々な方法がこれまで提案されているが必ずしも十分な効果が得られていない。超音波は樹脂を除去できる可能性はあるがモールドの微細構造を壊してしまう危険性がある事が指摘されている。そこで、まず、超音波で処理してみたところ微細構造の一部が壊れた。一方、高静水圧処理では見られておらず、高静水圧処理がモールドに対してダメージを与えにくいことが確認できた。本年度はさらに静水圧処理で除去できるメカニズムの解明のためにUV硬化樹脂のブロックを用いて形状変化や質量変化のフェノール濃度(浸漬液)・温度・圧力依存を調べた。その結果、予想に反してひび割れや重量の変化等、常圧のほうが単に樹脂へのダメージという点では影響が大きい可能性が高いことが示唆された。つまり、これまでの結果を総合すると高圧処理で樹脂とモールドの隙間に効率的に洗浄液が浸透する。常圧では効率的に樹脂の中にフェノールが浸透し、樹脂の膨潤やダメージを与える。さらにこのような状態の樹脂に加圧減圧を繰り返すことでモールドから樹脂を剥ぎ取りやすくなる。また、常圧で膨潤・ダメージを受けた状態の樹脂を加圧することで圧縮される。この加圧減圧を繰り返すと樹脂に対してより効率的にダメージを与えることができはがれやすくなっているという除去メカニズムが考えられた。さらにモールドから除去される過程の樹脂を観察してみると、特にライン状の微細構造においてよく観察できたがラインに沿った長い樹脂がきれいに浮いてきてほかの除去された樹脂と絡み合って固まりとなっていることが分かった。したがって、観察結果からもフェノールで樹脂が溶解したのではなくモールドと樹脂の接着性を弱めて除去していることが考えられ前述のメカニズムを示唆していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにほぼ当初の予定通りに研究は進捗している。アクリル樹脂およびUV-硬化樹脂において樹脂の種類は異なっても加圧減圧の繰り返しが除去には効率的であるという事はほぼ間違いないことが分かってきた。洗浄液(浸漬液)の選定においては一つの目安として溶解パラメーター(SP値)を当初考えていたが特にUV-硬化樹脂ではSP値との関係は必ずしも無いことが示唆された。そこで、なぜ除去できるかその理由を探るためにUV-硬化樹脂のブロックを用い、浸漬液は効果の高かったフェノールを用いて樹脂へのダメージ等を詳細に調べることとした。まず、常圧で調べた結果樹脂が壊れる、硬度が低下する事が分かった。さらに浸透液のスペクトルから樹脂は溶解していない可能性が高いことが示唆された。一方、400 MPa、50℃で実験を行ったところ、予想に反して常圧に比べ樹脂の形状変化や硬度低下が観測されなかった。 さらに、モールド(ライン構造)に付着したUV-硬化樹脂を観測するとラインに沿った長い樹脂がきれいに浮いてきてほかの除去された樹脂と絡み合って固まりとなっていることが分かった。従って、当初予定していた浸漬液のNMR、HPLCでの系統的な解析は行わないこととした。 以上の結果高静水圧処理で樹脂とモールドの隙間に効率的に洗浄液が浸透する。常圧では効率的に樹脂の中にフェノールが浸透し、樹脂の膨潤やダメージを与える。さらにこのような状態の樹脂に加圧減圧を繰り返すことでモールドから樹脂を剥ぎ取りやすくなる。また、常圧で膨潤・ダメージを受けた状態の樹脂を加圧することで圧縮される。この加圧減圧を繰り返すと樹脂に対してより効率的にダメージを与えることができはがれやすくなる可能性が高いという除去メカニズムが現在までに明らかとなってきた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では高圧下で除去される過程を観測する。加圧時間に依存して除去率が変化するようであれば速度論的解析(速度定数の圧力依存)を行う予定であった。これまでの結果で加圧時間にはあまり依存しないと考えられる結果が得られてきたので加圧時間と除去率の関係の速度論的解析は行わない事とする。しかし、加圧減圧が重要でしかも常圧でUV硬化樹脂がフェノールに浸透し柔らかくなるあるいはダメージを受け、その後に加圧することで圧縮されモールドからはがれやすくなっている可能性が示唆された。そこで、これまで加圧減圧の繰り返し実験において常圧15分加圧5分の組み合わせであったがこの常圧においておく時間が除去効率に影響してくる可能性があるのでこの時間を変化させて除去率にどのような影響を与えるか調べる。このとき必要に応じて常圧においておく時間と除去率の関係の速度論的解析を行う予定である。また、除去される過程の観察に関しては一部溶解している可能性がある事を当初想定していたが溶解の可能性は非常に低い事が示唆されてきたので処理後に樹脂を詳細に観察する事で樹脂がどの様にはがれてきたか詳細に調べていく予定である。処理後のモールドおよび樹脂は電子顕微鏡で観察できるため直接観察よりより高倍率で詳細な形状・表面等が観測されるというメリットもある。 以上の結果をもとに、モールドに付着した樹脂の至適効率的除去条件の最終確認、および、高静水圧処理で効率的に付着した樹脂が除去できるメカニズムについてまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度消耗品としてはUV-硬化樹脂はブロックを作成することもあり予定通りの使用量であった。旅費に関しては国際学会での発表を計画に従って使用した。また、ガラス器具やプラスチック製品などの消耗品はほぼ予定通りに使用した。一方、本年度においても高圧処理装置の大きなトラブルも無く高圧装置関連の消耗品の消耗が少なくその部分の予算が少なめにすんだ。樹脂が浸透液に溶け出すかどうかを確認する実験において浸漬液中に溶け出した樹脂の成分の分析を形状や重量変化および分光光度計で調べた結果、溶けていない可能性が高いことが予測された。そのためHPLCでの成分分析を行わなくなったためHPLCで用いる溶媒やカラムの購入を行わなかった。以上、2点が次年度使用額が生じた主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
研究最終年度はこれまでの結果から予測されるメカニズムが正しいかどうかを最終確認するためUV-樹脂ブロックを用いて加圧減圧の繰り返し実験において加圧5分、減圧(常圧)15分でおこなってきたのに対して減圧して常圧で置いておく時間が除去率にどの様な影響を及ぼすか調べるか系統的に調べる必要があると考える。そのためには大量の樹脂ブロックが必要であるとともに樹脂ブロックでの実験では通常のモールドに付着させる樹脂の量に比べ大量に必要となるため、その購入に使用する予定である。 また、研究成果の公表および情報収集を目的とする学会発表への参加費および旅費として有効に利用する予定である。
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