青森県岩木川水系を主な対象地として,哺乳類であるカワネズミ,魚類,水生昆虫類を対象に移動分散率を解明するための手法として生体内元素分析を行った.炭素・窒素安定同位体に加え,ストロンチウム安定同位体,酸素安定同位体などの同位体比と20以上の微量元素濃度を分析した. 水系上流域のダム湖を中心とした水系では,魚類,カワネズミの支流間移動は認められず,各個体群の分断化の可能性が示唆された.一部の魚類ではダム湖-支流間の移動が認められたが,この減少はこのダム湖の水位操作との関係性を検討する必要があることが示唆された.制限水位管理方式である旧ダムから常時満水位管理となる再開発ダムへの変換によるダム湖完成後の検討課題となった. 水生昆虫では主にヒゲナガカワトビケラを対象とし検討したが,成虫の飛翔行動は上下流双方向で認められ,従来から論じられていた上流へのベクトルの卓越は認められず,かつ大ダムが大きな障害となっていることが示された.支流間の移動は分析サンプルからは検出できず,より多数のサンプルを分析し検討する必要があるが,支流間移動がさほど頻出しないことが示唆された.この際,幼虫からさなぎを経て成虫への変態時に,継続してその特徴を持つ元素と特徴が消える元素が検出され,今後精査をすることにより使い分けが必要になることが明らかとなった. 本手法が当該研究目的において有効であることが示され,より一般的な手法となるように分析技術を検討することにより,汎用性を高めることが今後の課題となった.
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