研究課題/領域番号 |
26340092
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
柳井 清治 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (20337009)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カワヤツメ / 能登半島 / 里川 / 幼生 / ワンド |
研究実績の概要 |
カワヤツメ幼生は盲腸や粘膜皺襞を持たず,難分解性物質である陸上植物由来のデトリタスをどのように栄養として消化・吸収しているかという餌摂食機能が不明であった.そこでカワヤツメ幼生(以下では幼生と表記)の陸上植物の利用機構を明らかにする飼育実験をおこなった.また飼育実験に用いた幼生の腸内細菌の個体数と種名を調べ,陸上植物由来デトリタスが幼生の腸内細菌に与える影響を検討し,餌摂食機能を解明することを試みた.処理は葉を与えた処理(Litter),サケ肉を与えた処理(サケ),そして特に餌を与えなかった処理(Control)の3つとした. この結果,Litter処理の幼生はControlに比べ,重量と全長の両方において有意に成長していた.また容器内で繁茂した藻類はControlで多く,Litterで少ない傾向にあった.安定同位体解析の結果, サケ処理で窒素安定同位体比が最も高く,成長が大きかったLitter処理の幼生は他の処理に比べ有意に低かった.落葉リターと藻類の窒素安定同位体比を比較すると,サケ処理の藻類で最も高く,Litter処理が最も低かった.幼生の腸内細菌の個体数を比較すると,Litter処理がControl処理に比べて有意に多かった.腸内細菌の種を同定した結果,Control処理で6種,Litter処理で7種が確認された. またアメリカ西海岸を流れるコロンビア川においてアメリカ先住民グループがミツバヤツメの増殖研究を行っている.2017年3月にワシントン州ToppenishにあるYakama Nation 魚類研究所を訪れ,現地における孵化放流技術や幼生の飼育状況に関する研究交流を行った.さらに現地において地域住民による放流事業に参加し,日本のヤツメウナギとその文化の紹介を行った.そして現地の河川で行われている木材を使った河川の再生事業などを視察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年春は北陸地方が積雪が少なく融雪出水もなかったため,この時期に遡上してくるカワヤツメを捕獲できなかった.このため,遡上実験を行うための十分な魚を得れず,設定を変えて繰り返し行う遡上実験を行えなかった.また幼生の生態についても,幼生の生息場を実験的に造成することができたが,そこに放流して定着率を見るため,ある程度の数の幼生が必要となる.しかし,親魚(特に雌)が少なく,人工授精を行って十分な数の幼生を確保できなかった.この様に気象条件によって捕獲にばらつきが大きく,十分な実験に使う幼生を得られず,予定していた実験を行うことができなかったため,研究期間を1年延長し,2017年春に遡上してくる親魚を捕獲して2016年度に行う予定であった各種の実験を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2015年度に親魚が大量に捕獲され,水理実験施設を用いた遡上実験を行った.この結果,カワヤツメの遡上能力は低く,12㎝の落差は遡上できたが24cmの落差は遡上できなかった.しかし限界の遡上落差やどのような構造がよいかについては明らかではない.そうしたヤツメが遡上できる適正な構造物の形態について,水理実験施設を使いながら解明してゆく.遡上実験を行う.十分な親魚を得ることができないことも予想されるため,近隣県からの収集も試みる. 次に幼生の主な生息場となる粒径の細かい堆積地について,分布状況と生息密度を調べるとともに,幼生と底質をサンプルする.これらのサンプルは実験室で乾燥抽出し,幼生は筋肉組織,底質は有機物成分を抽出し質量分析にかけて窒素安定同位体比や炭素安定同位体比を測定し,その組み合わせにより季節ごとの餌起源の推定を行う.さらに幼生がどのように泥中の有機物を摂取するかに関して,胃内に含まれるバクテリアのDNA解析をおこない,セルロースを分解する酵素が生成されているかを確認する. 最後にカワヤツメの減少要因として,幼生が潜り込める泥の堆積した緩流域の消失がこれまでの調査から明らかになった.これを証明するために,泥が堆積できる好適なワンド地形を造成し,そこにカワヤツメ幼生稚魚(人工授精による)を放流し,その定着率をモニタリングする.もしワンド内に高い密度で継続して観測された場合,ワンド地形を増やしてやることによりカワヤツメを増やすことも可能となる.この実験を通して保全策を具体的に提案することが可能となると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度カワヤツメの捕獲数が極めて少なく,研究目的を達成するための実験調査が行えなかった.このため2017年度に研究計画を延長し,この春に遡上してくるカワヤツメ親魚を捕獲し,実験が行えるように次年度使用金額を確保することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
カワヤツメ遡上実験を行うための器材と人工ふ化を行うための器材を購入する.また造成した生息場において幼生の放流を行い,その定着数を見るための旅費を必要とする.そして最終年度であるため,論文を作成するための校閲料などに使用する予定である
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