分布南限地域である、石川県能登半島におけるカワヤツメ減少要因を明かにすることを試みた。この結果、2000年以前には能登半島においては多くの河川でカワヤツメが捕獲されていたが、2010年代になると2河川と激減し、その理由として1980年代に行われた治水工事による影響が大きかった。 泥に潜って河川生活を送る幼生にとって細粒土砂の堆積するワンドは必須の生息場であるが、1980年代に行われた河川改修により、そうした細粒土砂が堆積できる流れの緩いワンドが消失してしまった。そして河川温度の上昇はワンドに堆積した有機物の分解を速め、嫌気化することにより幼生にとって生息できない環境となっていることがわかった。このことから嫌気化しにくい常流のあるワンドを造成することが重要と考えられた。さらに河川内に築設された落差工や頭首工などの河川構造物も、遡上に大きな影響を与える。水理実験施設を用いて、カワヤツメの遡上能力を実験したところ、20㎝の落差が遡上限界と推定された。 また夏季の河川水温とカワヤツメ幼生の上限致死水温との関係を明らかにするため、室内で飼育実験を行った。この結果、18~28℃までの水温で飼育すると生残率は96~100%であったのに対し、30℃以上になると20%以下に激減し、上限致死水温は29.3℃と推定された。能登半島の河川における河川水温計測結果、上流域は28℃以下の水温に保たれていたが、下流側は夏季に30℃を超える場合も発生した。幼生の分布調査では堰堤による遡上障害のため、温度の低い上流側にカワヤツメの幼生は移動できないことが分かった。 今後地球温暖化により河川水温が上昇することにより、カワヤツメに深刻な影響を与える可能性がある。このため、移動の障害を解消」し、夏期水温の低い上流側に生息地を広げることが、絶滅から救う手法の一つとなると考えられた。
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