特定外来生物ソウシチョウは、近年日本各地の森林に侵入・定着して分布を拡大させ、在来鳥類群集と地域の生態系に深刻な影響を与えている。本研究ではソウシチョウの効果的な管理計画策定のため、マイクロサテライトDNAマーカーを開発し、国内集団の遺伝的構造を調べた。筑波山以西の国内12地点においてソウシチョウを捕獲して血液サンプリングを行い、DNAを抽出した。次世代シーケンサーを用いてゲノムDNA情報を得て、マイクロサテライト領域を含む20遺伝子座のプライマーを作成した。このうち解析に適さない座を除外した5遺伝子座、409個体について解析を行った。連鎖不平衡の解析から5座は同じ染色体上の近接した位置にはないと思われた。観察されたヘテロ接合度は全ての個体群において高かった(平均値0.788-0.917)。サンプル数の違いを考慮した対立遺伝子数は、四国を除く西日本の集団の方が概ね高い値を示し、愛知個体群、高知個体群、そして筑波個体群が低い値を示した。個体群間の遺伝的分化の程度を示すFST値は、平均して愛知個体群と他の個体群の間で最も高く(0.0335)、次いで高知個体群と他の個体群の間で高かった(0.0331)。個体群間の地理的距離とFST値の間に有意な相関関係はなく(p=0.448)、距離による隔離はみられなかった。STRUCTUR解析では国内のソウシチョウは9つのクラスターに由来している可能性が示唆された。ほとんどの個体群は多数のクラスターが混じった状態だったが、高知や愛知、筑波個体群では大部分が特定のクラスターに属する個体が多くみられた。以上より暫定的な結果であるが、他の個体群と遺伝的交流が少ないと考えられる個体群(高知や愛知,筑波山個体群)において、駆除の優先順位が高いことが示唆された。より詳細な駆除の単位を決定するため、今後さらに遺伝子座とサンプル採集地点の数を増やす必要がある。
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