研究課題/領域番号 |
26340100
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
木村 哲哉 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (00281080)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 嫌気性細菌 / 水素ガス / 共存培養 / バイオマス |
研究実績の概要 |
水素ガスを高生産する嫌気性細菌Clostridium paraputrificum M21株において、解糖系からピルビン酸を経て乳酸、酢酸、酪酸を生産する代謝に関与する遺伝子の発現についてRNAseqによって高発現がみとめられた遺伝子を解析した。昨年度の研究から、乳酸への流れを抑制し、酢酸や酪酸生成へと流れをかえることが水素ガス生産に密接に関連することが分かったので、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子について解析を行った。その結果、2つの乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のうちの一方の発現が高く、おもに乳酸生成に機能していることが予測された。そこで、遺伝子発現抑制法としてアンチセンスRNA法を試すことにした。アンチセンス鎖として5’側からいくつかの領域を含む遺伝子断片をPCR法で合成して、シャトルベクターpJIR751-fdxpro3へ連結した。これらのプラスミドで形質転換を行い、形質転換体を嫌気瓶で培養した。生産される水素ガスをガスクロマトグラフィーで調べたところ、予想に反してアンチセンス鎖を発現させた形質転換体の方がガス生産が低下していた。NADHの酸化還元のバランスが変わることで水素ガス生産が低下した可能性が考えられる。もう一つの大きな課題として、C. paraputrificumは植物バイオマスの分解が出来ない。そこで、培養条件がよくにており、植物バイオマスを分解できるRuminiclostridium josuiと共培養することを企てた。培養の炭素源にはボールミルセルロースを用いて、共培養における初期投入菌体の比を1:2から2:1まで変化させたが、水素ガスの生産量は大きく変わらず、R. josui単独培養に比べて約2倍の水素ガスが生産された。リアルタイムPCR法によって両菌株の増殖も確認できたことから、共存培養によってボールミルセルロースから水素ガスの生産を増加させることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
水素ガス生産に関わる遺伝子を特定し、遺伝子工学的に代謝の流れを変えることで水素ガス生産の増加を試みる予定であったが、最も簡便なアンチセンス法による遺伝子発現抑制法が機能しているか確認が出来なかった。また、Clostronベクターを用いた遺伝子破壊法を試みる予定であったが、ベクター構築が困難であったことから達成できていない。一方、植物バイオマスから直接水素ガスを効率よく生産する方法として、共存培養を試みたが、こちらは大きな障害もなく順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)遺伝子破壊による水素ガス生産の増強について アンチセンス法では完全な遺伝子発現の抑制は難しく、また結果の解析も明快な答えが得られるとは限らない。そこで、プラスミドの構築に失敗したClostronベクターについて、再度挑戦をする。プラスミド構築に利用した大腸菌DH5とベクターとの相性が悪い可能性があるため、別の宿主を利用して再度構築を試みる。さらに、別の遺伝子破壊用ベクターを入手したので、こちらでも遺伝子破壊用ベクターを構築する。 (2)共存培養による植物バイオマスからの水素ガス生産増強について R. josuiとC. paraputrificumの共存培養によってボールミルセルロースからの水素ガス生産を増強することが証明できたので、より実用的な基質である稲わらなどからの水素ガス生産を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
水素ガス生産に関わる遺伝子の発現を変えるため、遺伝子破壊用プラスミドを入手して、目的遺伝子の破壊を行う予定であったが、プラスミドの構築が出来なかった。そのため、遺伝子破壊株を作成して、水素ガス生産を試みる実験が出来なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに新たな遺伝子破壊用プラスミドを入手しており、これをベースにした遺伝子破壊プラスミドを構築する。また、通常使用してきた宿主大腸菌との相性が悪かった可能性があるので、新たに購入した新規な宿主を利用して遺伝子破壊プラスミドを構築する。このプラスミドで遺伝子破壊を行った株を用いて、セルロース分解性嫌気性細菌との共存培養による水素ガス生産を試みる。
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