水素高生産性の嫌気性細菌Clostridium paraputrificum M21を中心とした水素生産システムの構築をめざして、その水素生産代謝系の解析を行った。嫌気性細菌は解糖系でのピルビン酸生産を経て、その後、アセチルCoAから酢酸や酪酸、エタノールを生産する特有の代謝経路をもち、この際に生じた電子が水素ガス生産に利用されると考えられている。この過程で働く酵素の遺伝子を破壊して水素生産系の特定を行った。昨年度、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の破壊によって水素ガス生産が増加することは報告している。そこで、ピルビン酸からアセチルCoAを生じる経路に働くピルビン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ遺伝子破壊株(Δpfo)、アセチルCoAからアセトアセチルCoAを生産するチオラーゼ遺伝子破壊株(Δthl)、アセチルCoAから酢酸生産に働くリン酸トランスアセチラーゼ遺伝子破壊株(Δpta)、ブチリルCoAから酪酸生産に働くリン酸トランスブチラーゼ遺伝子破壊株(Δptb)の作出を行った。遺伝子破壊はNottingham大学が開発したClosTron法を用いた。これら破壊株を、グルコースを炭素源として100mLの嫌気瓶で培養して代謝産物を測定した。Δpfo株は水素と二酸化炭素の生産が完全に消失し、野生株と比較して乳酸・ギ酸の生産が増加し、酢酸・酪酸・エタノールの生産が減少した。Δthl株は酪酸を生産せず、他の有機酸が増加し、水素は減少した。Δpta株は酢酸の生産が低下し、乳酸の生産が増加したが、酪酸と水素が減少した。Δptb株は酪酸の生産が完全に消失し、乳酸・酢酸・エタノール・ブタノールの生産が増加し、水素の生産は減少した。これらの結果は、代謝にとってNADHの酸化が重要であること、水素ガス生産はピルビン酸からアセチルCoAへの反応に依存していることを示唆している。
|