本研究は,循環資源貿易と静脈産業の形成の構造を解明し,途上国を中心とした循環資源の輸入国における静脈産業の育成について議論を進める.平成28年度においては,1970年代の日本の静脈産業育成政策の整理を行ったうえで,静脈産業を育成する経済学的根拠,途上国の静脈産業育成における課題,方向性を議論した.その成果は誌上発表のほか,学会等で口頭発表された. 具体的には,静脈産業の育成政策の経済学的根拠として,使用済み製品の市場が存在しないことによる外部費用の発生や,静脈産業の高度化などが示されたうえで,日本では産業高度化の意味で特定事業者の設備に対する補助がされたこと,ただし市場構造を変えるものではなかったため静脈産業の育成には効果的ではなかったことなどが示された.また,それらを受けて市場構造を考慮した産業政策の重要性が提示された. 実態調査については,マレーシアにおいて国境を越えた静脈連鎖の状況を確認するとともに,ロシアの静脈産業に関する調査を行った.ロシアでは中古車輸入量減少の静脈産業への影響を観察したが,国境を越えた静脈連鎖には大きな変化がないことが確認された.その他,貿易統計(Global Trade Atlas)を用いて香港,マレーシア,タイ,スリランカ等12か国・地域の中古車貿易量を集計し,国境を越えた静脈連鎖の実態を把握,提示した. 最終年度として3冊の報告書を編纂,製本した.1.日本の静脈産業の形成と育成,発展をもとに途上国の静脈産業育成の課題,方向性を示すもの,2.日本の中古車輸出先とアジアの自動車リサイクルの調査記録および国境を越えた静脈産業連鎖の課題を示すもの,3.各国の中古車貿易のデータを集計,整理したもの,である.
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