最終年度は、生物多様性の利用の観点から主に2つの研究を行った。1つは、防潮堤などグレーインフラの建設に対して、生物多様性の生態系サービスを防災に活用するグリーンインフラについての研究である。ここでは、グリーンインフラの特徴とグレーインフラの特徴を経済学的にモデル化し、その費用便益を人口規模を考慮して比較可能なように定式化した。その結果として、人口規模がある閾値より大きい場合はグレーインフラが望ましく、一方、小さい場合はグリーンインフラが望ましいとの結論を得た。さらに、費用便益および人口閾値をすべてパラメータで示すことで、今後の実証研究に応用できる結果を得ることが出来た。 また、中国の退耕還林政策について、フィールドワークをもとに、その費用と便益の面から農家に与えた影響を計算した。費用にはこれまでほとんど考慮されてこなかった長期的機会費用を入れることで退耕還林政策の私的純便益を評価すると、調査した3つの地域(雲南省玉渓市・四川省南充市・吉林省大安市)によって農家の観点から持続的か非持続的かに大きな差異があることを示した。 さらに、生物多様性を含めて、持続可能性についての考え方を用いて「持続可能な開発目標」を解釈することを試みた。 これまでの本研究を通じて、生物多様性を活用することの意義を理論的および実証的に明らかにすることが出来た。また、規制についてはワシントン条約を通じて、その複雑な効果を理論的に示すことができた。
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