研究実績の概要 |
●研究目的:アフリカの自然保護政策は近年「住民主体」を標榜しており、その具体的な実行策として、これまで中央政府が独占してきた観光業に関連する権限を、地方に分権化することを始めている。タンザニアにおいては、1998年にWildlife Management Area(WMA)という新制度がつくられ、動物保護区周辺のコミュニティが、独自に保護区を設立して観光企業を誘致することができるようになった。このWMA導入以降の現状を明らかにし、批判的に検討することが目的である。 ●研究方法と成果: 2017年度は、過去3年の調査データをまとめ、論文として発表した(岩井雪乃2017「奪われる住民の観光便益―タンザニア・ワイルドライフ・マネジメントエリアの裏切り―」アフリカ研究 92, pp95-108.)。ここでは、ワイルドライフ・マネジメントエリアの4つ課題を明らかにした。すなわち、①WMA設立手続きの複雑さ、②観光便益の減少、③WMA事務局ガバナンスの脆弱性、④土地利用計画の変更の困難さ、であった。住民はWMAに裏切られたと感じており、脱退を望むほど負の影響が強まっていた。中でも最も深刻な課題は④であり、これによってWMAが土地収奪ツールとなってしまっていることを指摘した。 また、本研究の成果も含んだ書籍も出版した(岩井雪乃2017『ぼくの村がゾウに襲われるわけ。-野生動物と共存するってどんなこと?』合同出版, pp136)。本書は、中学生にも理解できるレベルに噛み砕いて、アフリカゾウによる農作物被害の問題を、歴史的な視点とグローバルな視点で検討した。
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