研究課題/領域番号 |
26350004
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
高田 宗樹 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40398855)
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研究分担者 |
横山 清子 名古屋市立大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (50174868)
宮尾 克 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (70157593)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人間工学 / デザイン評価分析 / 立体映像 / 数理モデル / 応用数学 / 生物・生体工学 / 自律神経機能検査 / 衛生学 |
研究実績の概要 |
立体映像視認時における周囲像が生体に与える影響について調査、検討を行っている。周囲像のない映像は一般には存在しない。周辺視が伴わない立体映像および周辺視することにより遠近感の手がかりのある立体映像を開発した。それらの視認が視機能、体平衡系等、生体に与える影響について調査した。被験者には事前に実験の説明を十分に行い、書面にて了承を得た。半透過型のスマートグラスを用いて両眼視差映像を視聴し、その際の重心動揺を記録、解析することで、立体映像視聴が体平衡系へ及ぼす影響について検討を行った。重心動揺検査では被験者にロンベルグ姿勢を指示した。 1: 立体映像の背景を完全に遮断した立体映像視聴が体平衡系に影響を及ぼすかを検証した。健常若年男性15名(21-24歳)を対象とし計測を行い、視聴映像は映像の背景が存在するものと背景が無地のものを使用した。映像視聴1 分の後3 分間閉眼検査を行い、この間1 分毎に計測を行い、計測後には主観的評価を行った。記録した重心動揺について、外周面積、総軌跡長、単位面積軌跡長、疎密度を解析し比較検討した。また、時間平均のポテンシャルを求めた。閉眼1-2分時においては背景あり映像の体平衡系への影響がみられた。 2: 耳・神経系疾患既往歴のない健常な若年者19名に加え、中・高齢者各19名を対象に実験を行った。被験者を球体が複雑に動く視差が伴う両眼立体視用映像とその片眼用2D映像に曝露した。また、これに遠近感の手がかりを有するものも用いて比較検討を行った。この結果、解析指標に有意差がみられたのは、一貫して四隅に球体がなく遠近感の手掛かりがないものであった。このことから、遠近感の手掛かりを有する映像を視聴したときに比べ、遠近感の手掛かりがない映像を視聴したとき、立位制御系が不安定になる傾向がみられた。また、高齢者の方が立体映像の影響をより受けると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)「周辺視が伴わない立体映像コンテンツの開発」および「周辺視することにより遠近感の手がかりのある立体映像コンテンツの開発」を行った。 これまで長時間立体映像曝露の影響を実証的に調査する際、重心動揺検査の視標として用いた視覚刺激用2D映像を(I)、これに通常の2D/3D変換を行って得られた立体映像を(II)とする。この映像をもとに、周囲像を単色(グレー)にて塗りつぶすことにより、周囲像をなくすことで周辺視が伴わない立体映像コンテンツ(III)および周辺視することにより遠近感の手がかりのある立体映像コンテンツ(IV)を開発した。ここでは、視標の周囲像の輝度に注意を払った。注視する画像要素によって網膜照度が変わると、直接的に視機能に影響するためである。例えば、周囲像を黒色に設定すると、瞳孔径が大きくなって被写界深度が浅くなり、水晶体調節の機能低下が生じる。 以上に加えて、背景全体が2.5秒で左から右に傾き2.5秒で右から左に揺れる映像を開発した。移動幅は1920ピクセルに対して、左右10%(192ピクセル×2)である。今後の実証研究に利用する予定である。 (2)若年健常者のみでなく、中・高年齢者に対する実証研究も行った。 被験者から3Hの位置に設置された40インチワイド円偏光用ディスプレイ上、または半透過型のスマートグラス上に前項で開発された映像(I)~(IV)を提示する。尚、映像(I)~(IV)の提示順についてはランダムとし、それぞれの映像を提示する実験は別の日に行うものとした。映像視聴(開眼検査)時およびその後安静(閉眼検査)時において立位被験者の重心動揺を記録し、その直後においてVisual Analog ScaleおよびSimulator Sickness Questioners (SSQ)による主観的評価を行った。この一部については統計処理を行い、成果発表を既に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
「立体映像の長時間曝露が生体に及ぼす影響に関する調査研究」では視標追従を指示した際には生じず、周辺視を禁じない場合にのみ発生することを実験的に確かめた。そこで、興味深い仮説「周辺視によって水晶体調節と輻輳の2つの制御系に生じる非平衡状態が映像酔いの原因となる」を着想した。立体映像の周辺視時における脳内情報処理が過負荷になっている可能性もある。研究計画通り、若年健常者(女性、16例)を対象として、前項(2)と同様に実証研究を行う他、脳血流変化についても検討を行う予定である。 重心動揺、Visual Analog ScaleおよびSSQの検査項目ごとに周辺視の有無または遠近感の手がかりの有無と映像の立体性を因子とする2元配置分散分析を行い、比較、検討を行う。研究代表者らはこれまで立体映像視認が体平衡系に与える影響について調査、検討を行い、動揺図の数理解析によって軽度の「映像酔い」の計量化について知見を得ており、これを応用する。 立体映像視認に伴う「眼疲労」や「映像酔い」については、2D/3D変換における単眼立体情報と両眼立体情報の間の矛盾や、映像を注視する際の視線の固定などが起因することも考えられることから、これらの要因について検討が必要である。そこで、本研究では、(3)項の実証実験では新技術であるPower3D法による立体映像の構成を取り入れ、それらの症状の緩和効果測定についても試みる。さらに、後者の原因も考えられるため、HMDを用いた以下の追加実験を行う。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を利用して、映像(I)および(II)を提示する。若年健常者(女性、16例)を対象として行う実証研究と同様の実験プロトコルに従って行うものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
立体映像視認時における周辺視が生体に及ぼす影響に関する実証研究の一環として、LABNIRS(島津製作所、京都)を借用して、立体映像の周辺視時にともなう脳血流変化の計測を計画していたが、島津製作所との日程調整が難航し、次年度に実施することとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
理由に挙げた次年度使用額は5月までに執行予定である。年度初めにLABNIRS(島津製作所、京都)を借用して、被験者10例を対象として脳血流変化の計測を既に行った。3D映像背景の有無およびその変化を因子とした。このため、次年度の研究計画に変更はない。
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