研究課題/領域番号 |
26350050
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
三橋 俊雄 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (60239291)
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研究分担者 |
檜谷 美恵子 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (60238318)
田中 和博 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (70155117)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遊び仕事 / 自然共生行動 / 環境教育 / 生活文化 / 自給自足 / 必要十分 / 台湾 / Taromak族 |
研究実績の概要 |
本研究では、自然に働きかけ、自然と「生身」の関係で共生してきた台湾Taromak族における植物採集の行動を、経済的な生業活動と同等な重みで、現在もなお脈々と受け継がれてきている「小さな生業」、自然のなかに身体をおき身体を媒介として対象物を採集・利用する行為、さらには祭りや通過儀礼における精神的文化的行動などを「遊び仕事」と捉え、食物、燃料、道具、薬、通過儀礼などの事例から、その特質を読み取り整理した。(1)食料としての野草に関する広範な知識、殆どの食材を自らの手で採取、様々な調理法や料理法。(2)屋外で薪を焚く慣習、植物の性質を熟知した「火の文化」。(3)植物利用における「適材適所」、自然物の形態を道具として見立て利用する「ブリコラージュ」の概念。(4)様々な野生の植物を薬草として用いる、薬草の知恵、野生の科学。(5)成年男子に対して青年会所で行われる伝統的・共同体的な成人教育:山地狩猟の厳しさに耐えられる肉体的・精神的修行・訓練。(6)粟収穫祭で使用されるブランコの支柱、綱、縛り縄が野生植物の採取・加工により制作。自然素材と伝統的な技法を用いることで、祭りの神聖性、伝統行事の精神性を保持。(7)婚約の行事:檳榔の果実やその月型の輪を贈る「送檳榔」、女性の家まで薪を運ぶ運搬用具と運搬方法など。 近代的な社会・技術的環境にあっても、自文化の「伝統的真正性」にこだわって生きようとする彼らの姿勢には、自然を知り尽くし自然と濃密に関わり合いながら互いに助け合う「共同労働」や「共同享楽」に基づくゲマインシャフト的なコミュニティ、エスニック・アイデンティティを次世代に継承する強い意志が見てとれた。また、「遊び仕事」のもつ象徴性が喜びや誇りと連動し、非市場経済的な「自然共生型の生き方」として息づき、「使用価値」の世界であることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京都府丹後半島における「遊び仕事」研究では、京都府宮津市由良川流域の生活実態調査から、ほとんどの食材は購入しないで自分でつくる「自給自足self-sufficiency」、手長エビ漁は食べきれる量だけおこなう「必要十分sufficient」、手長エビ漁の仕掛けは20基以内とする「共同体の規範community rule」、タラの芽は同じところから3度摘まない「自己の行動規範self standard」、浜でほかす雑魚小魚をもらい調理する「もったいない精神don't waste」、筍・ミョウガなど塩漬けして保存する「備え・保存preparation」、手長エビは高級食でも市場に出さない「非市場経済性non-market economics」、物々交換やおたがいさまの気持ちで地域共生する「互酬性reciprocity」などのサブシステンス力の概念(evaluative criteria for the subsistence)を導いた。また、京丹後市袖志地区における採藻業「おかずとり」においては、自然と共生してきた漁民の生活文化や共同体的規範などについて、その実態を確認することができた。さらに、台湾台東に居住する先住民Taromak族の調査から、経済的な生業活動と同等な重みで現在もなお脈々と受け継がれてきている「小さな生業」としての自然のなかに身体をおき身体を媒介として対象物を採集・利用する行為、さらには祭りや通過儀礼における精神的文化的行動などを「遊び仕事」と捉え、(1)食物、(2)燃料、(3)道具、(4)薬、(5)通過儀礼などの事例から、その特質を読み取り整理した。すなわち、これまで、26年度の宮津市由良川流域の生活実態調査並びに京丹後市袖志地区における採藻業「おかずとり」において、自然と共生してきた民俗文化としての「遊び仕事」の現代的価値について考察し、また、27年度の臺湾Taromak族における植物採集とその利用実態において、自然に対する畏怖や精神文化的意味合いをも内包した「遊び仕事」の実相を把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
28年度の研究は、人間と自然の原初的な共生関係を、台湾Taromak族における「遊び仕事」、特に、高山における伝統的狩猟文化について、その狩猟技術から精神的文化までを含めて調査し、京都府丹後半島における「遊び仕事」の自然共生・自立自存のあり方との比較検討も行いながら、日本、台湾における今日の近代化のうねりの中で、自然共生、自立自存(サブシステンス)の「生き方」の価値とは何か、また、その姿勢を継続し、多くの現代人に伝え体験させていくための環境教育のあり方・方策とは何かを視野に入れた、生活文化・環境民俗学的視座からの検討を進めていく。最終的には、サブシステンス力の観念(evaluative criteria for the subsistence)を構築し、その観念を実践・伝承していくべき方途の一つとして、環境教育における「遊び仕事」の導入について検討していきたい。
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