本研究課題では、植物生体電位が周辺の環境、特に人間の位置や動きによって影響を受けることを利用し、電位の変化から人間の位置や動きを推測する手法を確立することを目的としている。具体的には、植物生体電位が受ける影響の大きさは人間の動きや人間と植物間の距離に依存しているため、信号処理技術や機械学習によりその特徴を解析・学習し、室内に配置した植物の生体電位から居住者の位置や動きを推定する。さらに、人間の位置や動きから振る舞いも推定し、室内における居住者のモニタリング手法を実現することを目的としている。本手法の大きなメリットは、監視カメラのように被観測者に心理的な負担を与えることなくモニタリングが可能となること、また植物そのものが持つ癒し効果により居住者の心のケアも期待できるという点である。 本研究課題では、平成26年度には居住者の距離を推測するために有効な特徴量について調査した。周波数解析により抽出した特徴量を、ニューラルネットワーク等の機械学習手法によって学習し、位置を推定するモデルを構築した。また、構築したモデルを用いて、室内に配置した複数の植物で観測された植物生体電位から、居住者の移動軌跡を追跡するアルゴリズムを構築した。平成27年度には、前年度に構築したアルゴリズムに加え、室内の障害物や調度品の配置を背景知識として導入し、推定精度の向上を図った。平成28年度には、植物生体電位から距離を推定する際のモデルの構築において、機械学習の最新手法の一つである深層学習を導入し、複雑な周波数解析手法を用いることなく、高精度で距離を推定するモデルを構築した。また、新たな推定モデルを用いて、居住者の位置を追跡するアルゴリズムの精度向上を図った。 以上の成果により、植物生体電位を用いて室内の居住者の位置を推定することが可能となり、居住者に心理的負担を与えない室内モニタリングの基礎が実現出来た。
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