現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究目的に対する本年度までの達成度は概ね計画に沿って実施されていると判断している.本研究の目的は立体裁断の仮想化のために必要な基本的な要素を確立することにある.このためのシステムを成立させるためには,立体裁断の基本的な要素のモデル化が必要となる.立体裁断は,ダミーや人体の形状,型紙の形状を作成するための布,それを操作するための手などから構成され,さらに布を仮止めするためのピンや切り取るためのはさみなどが加わる.昨年度までに布を力学的に定式化したモデルを設定し,このモデルに変位が与えられた場合の変形をリアルタイムで計算する方法を定めた.さらに他の物体との衝突が発生したときのための処理も追加した. 手については,手や指の動きを動的に計測することのできるセンサを用いて,現実世界での手や指の動きを捉え,その動きに応じてリアルタイムで手のモデルを動作させることができた.手のモデルについても他の物体,ここでは布のモデルであるが,との衝突の処理を追加することで,相互作用が可能となっている. 今年度はさらに立体裁断を行う際の土台となるダミーのモデル化を行った.ダミーモデルは現実世界のダミーの形状の計測値に基づいて作成した.さらにほかの物体モデルとの相互作用を設定したが,ダミーモデルは静止しているので,より高速な処理方法を採用することができた. また,布モデルをダミーモデル表面上に写像することでピン留めを代替している.また,手のモデルでの布モデルの切り取りを仮想的に行う方法を作成するとともに,写像された布モデルの境界線を設定することで,布モデルの切り取りを実現しようとしている. 以上のように今年度までに立体裁断の仮想化のための基本的な要素モデル化に一応成功している.来年度以降は,これらの要素の連携をより強めることによって,システムの実現に近づけてゆく予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策については,2つの要素があると考えている. 第1は不足している要素の開発である。センサで捉えた手や指の動きをモデルに反映させている。センサの値の急激な変化が見られる場合があり,これに対応するためにフィルタ等のさらなる工夫が必要である.また,布モデルの操作はリアルタイム性が求められるため,布モデルには高速な計算を可能とするための簡単なモデルが用いられている.しかし,一方で形状を正確に求めるためには計算に時間を要する詳細な布モデルを用いる必要がある.布モデルは相反する性能を満たす必要がある.このため手で操作するときには簡単なモデル,操作が終了後形状を求める際には詳細なモデルというようにモデルの切り替えを実現する必要がある.また,型紙を作成する際に細かな調整が必要になる場合がある.この場合も,すでに形状が確定している部分は固定し,それ以外の部分を詳細なモデルに切り替えてリアルタイム性を保つことも考えられる. 第2は専門家によるシステムの評価である.これまでにも経験者に評価を依頼してきたが,今後進めるうえで専門家の意見を聞くことが重要になると考えられる.型紙作成の過程での操作について,不足している機能性能についての意見を聴取することは必要である.また,型紙作成の過程だけでなく,作成した型紙からパーツを作成し,これらを縫合して衣服の試作を行い,不具合を見出し型紙形状を修正する,という一連のサイクルについても観察が必要である.さらに本システムでのこのサイクルの実行についての評価も同時に必要となる. 上述の2要素を組み合わせることによる改良のためのサイクルを回してゆくことも必要である.専門家の意見に基づいてシステムの改良を行い,改良されたシステムに対する評価を行い,さらに改良を行うというサイクルを回すことによって.システムを構築してゆくことができると考えている.
|