研究課題/領域番号 |
26350070
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
濱田 州博 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (30208582)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 防縮加工 / 羊毛 / 染色 / 酸性染料 / CMADKタンパク質 |
研究実績の概要 |
羊毛からS-カルボキシメチルアラニルジスルフィドケラチン(CMADK)タンパク質を抽出し、粉末状に調製した。調製したCMADKは電気泳動により確認を行い、既報と同様のものが得られたことが分かった。 羊毛表面に脂肪分をアセトンで除去し、前処理剤としてカチオン性高分子電解質あるいはボラ型電解質を使用し、CMADKタンパク質を羊毛表面に付着した。このように加工した羊毛表面を電子顕微鏡写真により観察し、スケールがCMADKタンパク質で覆われていることを確認した。アーフェンフェルトボール試験の結果、加工した羊毛の密度は未加工羊毛のそれと比較して減少し、防縮性が増大していることが分かった。この防縮性能は、前処理剤の種類により若干変化したので、前処理剤により付着したCMADKタンパク質の量が異なると推察される。 酸性染料1-フェニルアゾ-2-ヒドロキシ-6-ナフタレンスルホン酸ナトリウムを用いて、未加工羊毛と加工羊毛の染色性を調べた。その結果、染料濃度に対する染着量変化(収着等温線)は、加工によりほとんど変化しなかった。羊毛自体に染着する染料と比較して付着したCMADKタンパク質に染着する染料がわずかなため、変化が見られなかったと思われる。一方、染色時間による染着量変化より求めた見かけの拡散係数は、加工により増大した。前処理剤の種類によらずすべての場合に増大しており、羊毛表面へのCMADKタンパク質付着が染料拡散を容易にしたと考えられる。CMADKタンパク質で作成した膜中における染料の拡散係数が未加工羊毛のそれよりかなり大きいことからCMADKタンパク質が表面に付着することで染料を取り込みやすくなり、それが拡散係数の増大につながったと推察される。 以上のように、CMADKタンパク質で表面加工することにより、染色性を落とさずに(むしろ向上させて)防縮加工する方法を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CMADKタンパク質が負の荷電を有することより、前処理剤としてはカチオン性化合物が有効であると考え、様々な構造を有するカチオン性高分子電解質やカチオン性ボラ型電解質(分子の両末端に荷電基を有する化合物)を前処理剤として使用して、CMADKタンパク質を羊毛表面に一定量付着することに成功した。防縮性能を測定したところ、何れの前処理剤を使用したときにも未処理羊毛と比較して防縮性能は増大した。しかし、市販の防縮加工羊毛の防縮性能には及ばず、今後改善法を考える必要がある。 CMADKタンパク質を用いて防縮加工した羊毛の酸性染料による染色性を染色速度と収着等温線の観点から調べ、防縮加工による染色性の変化を明確にすることができた。収着等温線の観点からは、加工による変化が見られなかったことより、加工により羊毛の色味に変化がないことが明らかとなった。また、染色速度の観点からは、加工により染色速度が増大しており、より短時間で染色できることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
前処理剤の種類や前処理条件を検討することにより、CMADKタンパク質の付着量を増加させることができるかどうか検討する。その結果、防縮性能や染色性に及ぼす効果について詳細に調べる。また、これまで使用してきたCMADKタンパク質は、羊毛由来のものであるため、羽毛由来のものを使用したときに同様の結果が得られるかどうかについても検討し、廃棄されている羽毛の有効利用につなげていく。 さらに、CMADKタンパク質ではなく、合成高分子電解質を使用したときにも防縮性能が増大するか、また、染色性が変化するかについても検討し、CMADKタンパク質を使用したことによる特異的な現象であるかどうかの裏付けも行う。
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