これまでS-カルボキシメチルアラニルジスルフィドケラチン(CMADK)タンパク質を表面に加工した羊毛の表面形状を電子顕微鏡写真(SEM)により、防縮性能をアーフェンフェルトボール試験により評価した結果、表面がCMADKタンパク質で覆われ、防縮性が増大していることが分かった。この結果を受けて、合成高分子電解質でも同様の現象が見られるのかを詳細に調べた。カチオン性高分子としてはポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDAC)を、アニオン性高分子としてはポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)を使用した。まずPDDACを羊毛表面に積層し、交互積層0.5回とした。次に、PSSNaを積層し、交互積層1.0回とした。この積層を繰り返すことで、表面に積層される高分子電解質の量を調整した。SEMによる観察の結果、交互積層回数が増加するにつれて積層量も増加し、防縮性能も向上した。防縮性能を増大させるためには、ムラなく均一に羊毛表面を覆う必要があり、交互積層回数の増加により覆われる割合が増加したためと考えられる。最外層にアニオン性高分子であるCMADKタンパク質を使用した場合にも同様の結果が得られた。 酸性染料1-フェニルアゾ-2-ヒドロキシ-6-ナフタレンスルホン酸ナトリウムを用いて、交互積層により加工した羊毛の染色性を調べた。その結果、染料濃度に対する染着量変化(収着等温線)は、加工によりほとんど変化しなかった。一方、染色時間による染着量変化より求めた見かけの拡散係数は、最外層がカチオン性高分子電解質の場合に増大した。CMADKタンパク質の場合にはアニオン性高分子電解質にもかかわらず拡散係数が増大したので、CMADKタンパク質の構造効果も核酸係数にはあると考えられる。 以上のように、高分子電解質の羊毛表面加工による防縮性能と染色性への効果が明らかとなった。
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