本研究は酸化還元酵素の一つであるラッカーゼ(Lac)の染色・洗浄への有効活用を目的とする。最終年度は、平成27年度までに得られた成果を踏まえ、一官能型および異種二官能型反応染料を用いて染色した羊毛織物に対する水系洗濯時のラッカーゼによる移染防止効果と羊毛織物の消費性能評価すなわち染色堅ろう性を中心に検討した。 まず、反応染色布をLac水溶液で洗浄し、洗浄の有無による表面反射率への影響を調べた。その結果、K/S曲線ではほとんど変化は見られず、固着した染料にはLacは作用しないことが示唆された。JIS L 0849に準拠し、洗浄後の染色布の湿潤摩擦堅ろう度を調べた。40、60℃の水中で60分洗濯した染色布による白布への汚染は3-4級と低い結果となった。一方、Lac、Lac/フェノチアジン-10-プロピオン酸(PPT)(メディエーター)で処理した染色布は汚染4級、4-5級と高い堅ろう性を示した。さらに、汚染布のK/S値から汚染性を比較したところ、Lac/PPT溶液で洗濯した試料のK/S値が最も低く、汚染されにくいことが確認できた。繊維から遊離した未固着染料がラッカーゼによって脱色され、堅ろう性向上に寄与したと考えられる。 実用洗濯では界面活性剤との共存系である。そこで、界面活性剤がラッカーゼの酸化作用を阻害せず、ラッカーゼによる未固着反応染料の脱色が可能であるか調べた。アニオン界面活性剤の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)に比べ、ノニオン界面活性剤ポリオキシエチレンアルキルエーテル(POE)共存下の方がK/S値が低く、湿潤摩擦堅ろう度(汚染)はLAS、POE、Lac/LAS、Lac/POEは4級、Lac/PPT/LAS、Lac/PPT/POEは4-5級を示した。したがって、実用洗濯を想定した場合、ノニオン界面活性剤の方がラッカーゼに好適であることが示唆された。
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