研究課題/領域番号 |
26350083
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研究機関 | 文化学園大学 |
研究代表者 |
米山 雄二 文化学園大学, 服装学部, 教授 (30556163)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 機能性衣料 / ポリウレタン / 伸縮性 / 洗浄 / 界面活性剤 |
研究実績の概要 |
本研究は、伸縮性を有する機能性衣料を着用した場合に皮脂汚れが付着し、洗濯したのちも残留して、それらが機能性衣料の伸縮性能の低下につながることを明らかにするとともに、その解決策として機能性衣料の性能維持に適した洗浄技術の確立を目指すものである。本研究の2年目である平成27年度は、機能性衣料に付着する皮脂汚れを除去するために行う洗浄の影響について、JISL1096の定荷重法を参考に設定した引っ張り試験における伸長量の変化から、以下に示す項目1~3を検討した。 1.ポリウレタンを含む機能性衣料に付着した皮脂汚れが洗濯後に落ちにくく残留することについて、ポリウレタンを含まないポリエステル100%の衣料を用い、油汚れ汚染布を作成して洗浄した。これを陰イオン界面活性剤溶液、非イオン界面活性剤溶液および市販の液体洗剤を用いてJISK-3371の洗浄試験機にて洗浄し、油汚れの洗浄性から機能性繊維の油汚れ残留要因を検討した。 2.試験布の伸縮性能に及ぼす洗剤の影響については、陰イオン界面活性剤溶液、非イオン界面活性剤溶液および市販の液体洗剤の3種類の洗剤液を用いて洗浄した場合の伸長量の変化、およびこれらの洗剤液の影響をより明確にするために、これら3種類の洗浄液に試験布を所定時間浸漬した後に引っ張り試験を行い、伸長量の変化を測定することで検討した。 3.これまでの結果はポリウレタン糸の性質変化が主要因であると考えられることから、ポリウレタン糸を用いてこれを陰イオン界面活性剤溶液および非イオン界面活性剤溶液に浸漬した場合に、その伸長量に及ぼす界面活性剤の影響を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度使用した代表的な機能性のスポーツウェア(ポリエステル84%、ポリウレタン16%)に加えて、ポリウレタンを含まないスポーツウェア(ポリエステル100%)2種を選定し、油汚れの洗浄性を検討した。その結果、機能性のスポーツウェアに付着した油汚れの除去には、ポリウレタンの有無が大きく影響し、ポリウレタンが存在すると油汚れの残留が大きくなることが明らかとなった。 伸縮性能に及ぼす洗剤の影響については、スポーツウェアの洗濯の際に用いる洗剤の種類によって異なり、陰イオン界面活性剤溶液よりも、非イオン界面活性剤溶液の方が伸びやすくなることがわかった。試験布の伸長量変化はポリウレタン糸が入っているコース方向(ヨコ方向)の方がウェール方向(タテ方向)よりも大きく表れ、伸びやすくなることがわかった。ポリウレタン糸に対する油汚れ付着や界面活性剤の影響をより明確にするため、界面活性剤溶液にポリウレタン糸を浸漬処理したところ、その違いが明確になり、陰イオン界面活性剤溶液では浸漬時間とともに伸びにくくなり、非イオン界面活性剤溶液では時間とともに伸びやすくなることがわかった。これらのことから、機能性衣料の伸縮性を発揮するポリウレタン糸のソフトセグメント部分は油汚れや界面活性剤の浸透拡散を受けて物性が変化することが判明してきた。その中で、洗浄時の界面活性剤の種類によって伸縮性能の変化を抑制する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成26、27年度に得られた知見より、機能性衣料に用いられるポリウレタン糸は油汚れが浸透して残留しやすく、それを除去するのは極めて難しいことから、平成28年度の計画は当初の「機能性衣料に付着した皮脂汚れを除去するための洗剤組成の検討」から視点を変えることとした。すなわち、ポリウレタン糸の伸縮性能には界面活性剤の浸透も影響するが、その種類によっては伸縮性能の劣化を制御する可能性があることが示唆された。これにより、平成28年度は「機能性衣料の機能保持に適した洗剤組成および洗浄条件について検討」することとして、本研究の目的達成に向けて以下の項目を検討する。 (1)機能性衣料の伸縮性に及ぼす界面活性剤の影響と化学構造式のとの関係を検討する。 (2)機能性衣料の伸縮性に及ぼす他の洗剤成分(アルカリ剤、漂白剤、柔軟剤)の影響を検討する。 (3)機能性衣料用の洗剤組成および洗浄条件から、実際の家庭洗濯における条件範囲を考慮して最適組成と最適条件を絞り込む。 (4)その効果を、機能性衣料の着用・洗濯を繰り返す実用試験を行い検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
この次年度使用額は、平成26年度の購入計画にあったWilhelmy表面張力計の機種変更により生じた残額(約53万円)である。この金額は平成27年度に評価用の機能性衣料を購入する費用とする計画であったが、平成27年度の検討を進める中で、ポリウレタン糸に対する洗剤および界面活性剤の影響が大きいことがわかり、その現象把握に注力した。このため、機能性衣料の購入は平成28年度に行い、下記の使用計画に示すように着用・洗濯試験にこの費用を使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年は機能性衣料が油汚れの付着や洗剤成分が影響し、スポーツウェアの伸縮性能が変化することを把握した。平成28年度は、ポリウレタンの伸縮性への影響を制御する界面活性剤や他の洗剤成分を探索して洗剤組成の確立し、その効果を実際の着用・洗濯試験で確認する計画である。平成28年度の研究費の使用計画において、主たるところは着用試験に用いる機能性衣料の購入および家庭用洗濯機の購入である。項目は次のとおりである。(1)機能性衣料の着用・洗浄試験における試験衣料および洗濯機の購入費用、(2)研究成果を学会に発表するための学会参加費及び旅費(日本油化学会洗浄・洗剤部会主催 第48回洗浄に関するシンポジウム:11月、材料技術研究協会主催 材料技術研究発表会:12月)、学会誌への投稿掲載料(材料技術研究協会:8月、平成29年2月)、(3)実験用試薬、消耗品の購入費用
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