本研究は、宮廷文化で大きな役割を果たした女官の住生活に焦点を当て、京都御所研究の中でも等閑視されてきた、近世における女官の住生活空間について明らかにすることを目的としている。具体的には、実地調査と文献調査に基づきながら、本研究の4つの課題である①近世における女官の住生活空間の建物配置と平面の変遷、②近世における女官の住生活、③近世における女官の住生活空間の室内意匠、④寛政度内裏における女官の住生活空間の設計過程について検討・考察を行った。 本研究の方法は、資料の調査収集と分析、現地調査、考察に大別できる。平成28年度は最終年度に当たり、前年度までに調査収集した内裏造営・女官関係資料を分析し、現地調査を行い、考察した。すなわち、寛政度内裏の造営日記である「造内裏御指図御用掛り御用并自分記」および内裏の道具に関する史料である「奥御用新調御道具帳」の解読およびデータ入力を研究協力者(古文書の専門家)の協力を得て完了した。また、泉涌寺において、上位の女官の日常生活のための施設であった対屋から移された障壁画を中心に調査した。そして、女官のうち勾当内侍(こうとうのないし)の日常生活のための施設であった「長橋局」に着目し、現在の京都御所(安政度内裏)の長橋局などを、宮内庁京都事務所管理課にご協力いただき、現地調査した。 学会発表に関しては、平成28年度日本建築学会大会学術講演会で、「近世の女官の生活空間における御道具の新調」について発表した。また、近世の長橋局について考察し、平成29年度日本建築学会近畿支部研究発表会研究報告に応募した。
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