NMRによる細胞中の水の拡散測定を行い、拡散時間を長くすると拡散係数が低下する制限拡散現象を利用して、根菜類の加熱・凍結による物性変化を評価する手法を検討した。 バイポーラーパルスを用いたNMR拡散測定法により、最大1sまでの拡散時間で拡散係数を安定的に測定でき、野菜類の制限拡散現象を観測できることがわかった。60から100℃の加熱により野菜が軟化していくのにともない、制限拡散は徐々に自由拡散に近づき、組織の軟化とともに細胞破壊が進行していくことが拡散測定により観察された。ジャガイモの60℃処理では一時的に硬さが増したが、制限拡散も一時的に大きくなり、でんぷんの膨潤や細胞膜や細胞壁など組織の変化に対応した変化が認められた。-30℃での凍結処理では組織が大きく軟化したが、この時細胞中の水の拡散はほとんど自由拡散になり、細胞破壊が大きく進展していることがわかった。加熱(ブランチング)後の凍結処理では硬さがほぼ生での凍結と同程度の値まで低下したが、制限拡散も凍結によりほとんどなくなっていた。 凍結前のショ糖、トレハロース、塩化マグネシウム浸漬処理は-30℃凍結では硬さの保持に若干の効果しか認められず、制限拡散もなくなり細胞破壊は防げなかった。凍結時間の測定では、-30℃凍結では凍結開始から終了まで約1時間を要していたが、過冷却利用した凍結法では20分程度で凍結完了し、硬さも保たれていた。しかし、この時も制限拡散はほとんどなくなっており、顕微鏡観察からは細胞間の大きな氷晶形成がなくなっていたことが軟化を抑えた原因と考えられた。過冷却凍結ではジャガイモ1個丸ごとの凍結でも効果が認められ、MRI測定でも内部組織がある程度保たれていることが確認された。
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