研究実績の概要 |
食品の色は、食材の鮮度や風味に関与する要素である。クロロフィルの光による退色は、食品業界では問題となっている。本研究では、溶液中のクロロフィルの緑色の保持を目的として、エタノール-水系において、クロロフィルの凝集性に注目して検討を行った。 クロロフィルは、クロロフィル-aを用い、異なるエタノール濃度(10、20、30、40、50、60、70、80、90、100 %, v/v)のクロロフィル溶液を調製した。サンプル溶液にUV(波長:336 nm)を照射し、0、1、2、3、4、5、6時間後にそれぞれ色差、UV-Visスペクトルの測定を行った。クロロフィルの凝集体の粒径の測定は、動的光散乱式粒径分布測定システムを用いて行った。 UV照射を行った結果、6時間後にはエタノール濃度60%以上で著しい退色が生じたが、10-20 %エタノール溶液では緑色の保持が認められた。UV-Visスペクトルを測定した結果、エタノール濃度の高い溶液中の666 nmのピークはモノマーのクロロフィルを示し、光照射時間とともに著しく減少した。しかし、10、20 %エタノール溶液の672 nmのピークは凝集体の形成を示し、その減少率は低くなった。また、粒子径の測定から、10、20 %エタノール溶液中のクロロフィルの粒子径は、それぞれ80、160 nmと他の溶液に比べて小さいことがわかった。以上のことから、クロロフィルは、エタノール濃度が低い溶液中では、クロロフィル同士が集まり、小さな凝集体を形成して光からのダメージを軽減することが明らかになった。しかし、それ以上のエタノール濃度では、大きな凝集体を形成するか、モノマーとなって分散するために光を直接受けて光退色を引き起こしたのではないかと考えられる。本研究により、クロロフィルのナノ粒子が形成される条件やメカニズムが明らかとなり、今後、食品への適用が期待できる。
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