研究課題/領域番号 |
26350117
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
森本 恵子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (30220081)
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研究分担者 |
小城 勝相 放送大学, 教養学部, 教授 (10108988)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エストロゲン / 高脂肪食 / 脂肪酸感受性 / 脂肪嗜好性 / 脂肪酸受容体 / 月経周期 / 閉経 / 肥満 |
研究実績の概要 |
1.女性における脂質代謝・脂肪酸の味の感受性・脂質嗜好性に対する月経周期の影響:若年女性16名を対象に月経期・排卵前期・黄体期の3期で、オレイン酸の味の閾値により脂肪酸の味の感受性を評価した。また、食物油添加スープにより脂肪嗜好性を測定した。さらに、自由摂食および実験前後3日間の食事調査により脂質摂取量を評価した。その結果、脂肪酸の味の感受性や脂肪嗜好性、脂肪摂取量の月経周期性変動が認められた。特に血漿エストロゲンのみが高濃度である排卵前期では、プロゲステロンも共に高濃度である黄体期に比べて、脂肪酸の味の感受性が向上し、脂肪嗜好性が低下、脂肪摂取量が減少する傾向が示された。 2.雌性ラットにおけるエストロゲンの脂質代謝を介した摂食調節作用:成熟雌性ラットを用い卵巣摘出後にエストラジオール補充を行ったE2群と偽薬補充(Placebo)群を用いて、高脂肪食投与下でエストロゲンの摂食・エネルギ-摂取量、脂質代謝、摂食関連ペプチド、脂質嗜好性に対する調節作用について検討した。 ①高脂肪食投与下の摂食・エネルギ-摂取量に及ぼすエストロゲンの影響:普通食では、Placebo群に比べ、E2群では摂食量、エネルギー摂取量が減少し、体重減少が見られた。このエストロゲンの摂食抑制作用は高脂肪食投与下ではより強く、一過性に体重減少したのに対し、Placebo群ではエネルギー摂取量が増え、腹部内臓脂肪の増加による体重増加を引き起こした。 ②高脂肪食投与による脂質代謝の変化におけるエストロゲンの作用:エストロゲンは卵巣摘出ラットの高脂肪食誘発性肥満を抑制したが、その作用として摂食抑制だけではなく、摂食効率の低下も認められた。さらに、そのメカニズムとして、エストロゲンは短期的には腸間膜脂肪・骨格筋の脂肪合成系酵素の減少、長期的には肝臓・脂肪の脂肪酸酸化系酵素の増加を引き起こすことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はほぼ計画通り、順調に進行している。若年女性を対象とした実験では、当初18名の被験者を集め、月経周期の3時期に実験を行った。このうち、排卵前期の判定は市販の尿中黄体形成ホルモン検出薬を用いて行った。後日、血漿エストラジオールおよびプロゲステロン濃度の測定を行い、18名中16名では月経周期中3時期の判定が適切であったと確認できた。このように、本検出薬による実験日の設定は妥当と考えられた。 この若年女性の実験結果では、脂肪酸の感受性には月経周期により変動する傾向が見られた。さらに、感受性と脂肪嗜好性には相関があることが判明し、加えて、脂肪摂取量にも周期性変動があることが示された。この結果は新しい知見であると考えられるが、血漿エストラジオールの変動のみでは説明できず、プロゲステロンとエストラジオールの相互作用があると考えられる。今後は、エストラジオールのみでなく、プロゲステロンの作用も念頭にいれて、動物実験を構築したい。 一方、卵巣摘出ラットにエストラジオール補充を行い、高脂肪食投与下でエストロゲンの摂食抑制作用を検討した実験では、普通食投与下と比較し、その抑制作用がより顕著に発揮されることが判明した。しかし、その効果は期間限定的であり、エストロゲン欠乏のプラセボ群においても、約4週間後には、摂取エネルギー量が元に戻った。平成26年度は、エストロゲンの高脂肪食投与下での摂食抑制作用が最大となる72時間目と抑制作用が消失する4週間目に、脂肪組織、骨格筋、肝臓のサンプリングを行った。本科研費によって、脂質代謝関連酵素および摂食関連ペプチドなどの抗体や測定キットを入手し、これらタンパク質の測定を肝臓・腸間膜脂肪・骨格筋や血漿を用いて行った。今後は、凍結保存サンプルを使用して、脂質代謝におけるエストロゲン作用について、さらに詳細に検討を加えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の結果より、当初の計画はほぼ順調に進んでいるが、今後はやや焦点を絞りつつ、研究内容を深めることによって、当初の研究目的を達成できると判断している。 1.女性における脂質代謝・脂肪酸の味の感受性・脂質嗜好性に対する月経周期や閉経の影響:平成26年度よりスタートした若年女性の実験においては脂肪酸の感受性試験が安定的に実施できるようになったため、今後もこの手法を用いて、さらに例数を増やす。加えて、閉経前後の中高年女性を対象とした同様の実験にも着手する。 2.雌性ラットにおけるエストロゲンの脂質代謝を介した摂食調節作用 (1)高脂肪食投与による脂質代謝の変化におけるエストロゲンの作用:凍結保存したPlacebo群とE2群の肝臓、腸間膜脂肪、腓腹筋を用いてAcetyl-CoA carboxylase(ACC)、phospho-Acetyl-CoA carboxylase(pACC)、Fatty acid synthase(FAS)、Carnitine palmitoyltransferase-1 muscle(CPT-1M)等を測定する。さらに、血漿エストラジオール、活性型グレリンなど摂食関連ペプチド、各種リポタンパク質濃度を測定する。(2)高脂肪食と普通食の自由選択摂食に対するエストロゲン・プロゲステロンの影響:Placebo群、E2群、Progesterone補充群に対して“自由選択摂食”を4週間実施し、摂食量を測定する。4週間後に肝臓、腸間膜脂肪、腓腹筋を摘出し、(1)と同様の各種タンパク質発現や血漿濃度の分析を行う。(3)遊離脂肪酸受容体を介した摂食への影響とエストロゲンの作用:舌、消化管、肝臓、脂肪組織、骨格筋などの脂肪酸受容体、エストロゲン受容体発現などを免疫組織化学法、Western blot法、RT-PCR法により測定し、エストロゲンの作用部位を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、購入した抗体や測定キットを効率よく適切に使用できたため、容量や個数を最低限に抑えることができ、購入費の削減ができた。また、被験者謝金や学会旅費を支出する予定だったが、運営費交付金などの他の予算から支出できたため、科研費の使用を抑制できた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に繰り越した256,244円は、今後の実験計画を遂行する上で必要となる抗体や測定キットなどの消耗品の購入に充てる予定である。
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