研究課題
我々のグループは脂肪酸による個体および細胞の機能制御に注目している。肝臓のマクロファージであるクッパー細胞は、炎症に対して促進的にも抑制的にも作用することが報告されている。クッパー細胞は肝類洞内に分布しており、生体の常在性マクロファージの70~80%を占め、サイトカイン産生や貪食を行う。我々はすでに、この細胞に脂肪酸のキャリアである脂肪酸結合タンパク質7型(Fatty Acid Binding Protein 7, FABP7)が特異的に発現し、脂肪酸の多寡がクッパー細胞を介して消化器系の炎症を制御する可能性を示してきた。今回、FABP7を欠損したマウスで炎症モデルを作成し野生型マウスの反応と比較したところ、逸脱酵素が上昇する一方で、サイトカインの発現は抑制され炎症部位へのクッパー細胞の集積が減少していた。また、死細胞の貪食能の有意な低下や線維化の減少も見られた。これらの結果から、免疫系細胞への脂肪酸の取り込みが、消化器系の炎症を制御していることが示唆された(Am J Pathol, 2014)。さらに、FABP7を欠損した成獣マウスに高脂肪食を12週間に渡って摂取させ、個体および消化器系の細胞の変化を野生型マウスと比較した。高脂肪食の摂取によりFABP7欠損マウスおよび野生型マウスの双方は有意に体重が増加した。しかし、野生型マウスに顕著な肝臓重量の増加や逸脱酵素・サイトカイン産生の上昇が見られたのに対し、FABP7欠損マウスではそれらの変化が抑制されていた(投稿準備中)。また、当該マウスの消化管を採取した(27年度に解析予定)。また、炎症や肥満によって細胞の脂肪酸要求性が変化するという仮説の下に、免疫系の細胞やそれを制御する細胞中の脂肪酸結合タンパク質の発現機序について検討を行った(結果の一部を日本解剖学会総会にて発表。実験継続中。)。
2: おおむね順調に進展している
1) 26年度までの研究により、炎症と消化器の免疫系細胞の脂肪酸動態に密接な関係があることが示された。2) 実験に必要な肥満モデルの作成方法を確立できた。3)脂肪酸結合タンパク質の欠損と糞便の内容について検討中である。
26年度の研究結果より、炎症や細菌の侵入によって免疫系の細胞やそれを制御する細胞の脂肪酸の要求性が変化するのではないかという仮説を立てた。そこで、27年度は、①脂肪酸の多寡と糞便中の細菌叢との関係について検討を行う。網羅的な解析を行った後、特に顕著な差異を示したものに注目して詳細を検討する。②常在菌の曝露を減少させた動物モデルを作成し、細胞レベルや個体レベルで脂肪酸の要求性を検討する。③結果を考察しながら、肥満モデルを用いた解析を展開する。
本年度の実験内容に変更はなかったが、当初予定していた実験試薬の変更により、未使用額が生じた。
上記の未使用額については、平成27年度の実験試薬の購入に充てる。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (19件) 備考 (1件)
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http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~org-anat/