ICRマウスにストレプトゾトシン(STZ)を腹腔内投与し、Ⅰ型糖尿病モデルマウスを作製した。糖尿病発症4週間後に肝臓を摘出し、リアルタイムRT-PCR及びウエスタンブロッティングにより、CYP2E1の発現量を調べた。また、Ⅰ型糖尿病モデルマウス及び正常マウスに、解剖24及び3時間前に40 mg/kg b.w.の量でAAを経口投与した。解剖時に骨髄細胞を取り出して小核試験に供し、染色体異常誘発能を評価した。さらに、摘出した肝臓、腎臓、脳等については、コメットアッセイ試験に供し、各臓器におけるDNA損傷性を評価した。 Ⅰ型糖尿病モデルマウスの肝臓におけるCYP2E1遺伝子及びタンパク質の発現量は正常マウスと比較して、それぞれ約1.5倍、約1.4倍であり、有意な発現の上昇が確認できた。正常マウスへのAAの投与により、非投与群に比べて骨髄細胞において小核誘発能の上昇傾向が確認できた。また、肝臓、腎臓、脳において有意なDNA損傷性が誘導された。Ⅰ型糖尿病モデルマウスにAAを投与したところ、非投与群に比べて、有意な小核誘発能の上昇が確認できた。また、肝臓、腎臓、脳においては有意なDNA損傷性の増強がみられた。さらに、正常マウスにAAを投与した群に比べても、小核誘発能の上昇傾向がみられ、肝臓においては有意なDNA損傷性の増強が、また腎臓においては増強傾向がみられた。 以上の結果より、糖尿病発症時ではCYP2E1の発現の上昇に伴って、AAのGAへの代謝活性化が促進されることで、AAの遺伝毒性が増強することが推測された。したがって、食品中化学物質を摂取する上で、正常な実験動物を用いたリスク評価だけでなく、糖尿病等の生活習慣病や飲酒等の食習慣を考慮したリスク評価が必要であると考えられた。
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