研究課題/領域番号 |
26350131
|
研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
清瀬 千佳子 神奈川工科大学, 応用バイオ科学部, 教授 (50272745)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ビタミンE / インスリン抵抗性改善 / C2C12細胞 / KKAyマウス / 食品成分 |
研究実績の概要 |
日本において最も罹患者が多い「糖尿病」を食品成分で改善できるかどうかについて検討を行っている。特に、糖尿病発症の主要な機序である「インスリン抵抗性」の改善に着目し、その点について改善しうる食品成分を見出す事を本研究の目的とした。食事から吸収された糖(グルコース)は骨格筋等の組織に取り込まれるが、糖は通常、細胞膜を通過することができない。そこで、インスリンが分泌され、骨格筋等の細胞膜にあるインスリン受容体に結合する事でシグナルが細胞内に伝達される。このシグナルは最終的にグルコーストランスポーター4(GLUT4)を細胞膜へトランスロケーションする事でグルコースが細胞膜を通過して細胞内に取り込まれるが、様々な影響によって、GLUT4のトランスロケーションが阻害され、グルコースが細胞内へ取り込まれなくなる。これが「インスリン抵抗性」となる。「様々な影響」の一つに肥満によって肥大した脂肪細胞から分泌される遊離脂肪酸が考えられている。遊離脂肪酸が増加すると、骨格筋の細胞膜上に存在する脂肪酸輸送担体(CD36)に結合し、Aktのリン酸化を抑制することで、最終的にGLUT4のトランスロケーションを阻害し、インスリン抵抗性を引き起こすことが示唆されている。そこで、インスリンシグナル伝達経路に焦点を置き、まずは栄養素の1つであるビタミンE同族体の効果について検討を行う事にした。平成26年度では、マウス骨格筋細胞であるC2C12細胞を用い、この細胞に遊離脂肪酸としてパルミチン酸を添加する事で、C2C12細胞中のAktのリン酸化が抑制される事を確認した。さらに、このインスリン抵抗性惹起細胞にビタミンE同族体をそれぞれ6種添加した所、δ-トコフェロールが遊離脂肪酸によって抑制されたAktのリン酸化を改善する事を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度の研究成果を受けて、平成27年度は糖尿病誘発のKKAyマウスを用いて、インスリン抵抗性改善について動物実験を行う予定であったが、C2C12細胞を用いて、δ-トコフェロールの効果についてさらに詳細に検討することにし、KKAyマウスを用いてのin vivo実験は平成28年度に行う事にした。それゆえ、進捗状況の区分を(3)と判断した。 平成27年度は平成26年度に引き続きC2C12細胞を用いて、δ-トコフェロールのさらなる作用機序について検討を行った。平成26年度の結果では、δ-トコフェロールはC2C12細胞のAktのリン酸化を改善できることを明らかにした。Aktリン酸化を介したインスリンシグナル伝達はAMP-activated protein kinase(AMPK)の活性化が必須であると考えられている。またAMPKはPPARgamma coactivator-1alpha(PGC-1alpha)の発現・活性化を誘導する事も報告されており、PGC-1alphaの活性化はミトコンドリアの生合成を亢進することでインスリン感受性を改善すると考えられている。そこで、δ-トコフェロールがPGC-1alphの発現及び活性化にも影響を与えるかどうかについて検討を行った。その結果、δ-トコフェロールはPGC-1alphaの遺伝子発現量を有意に増加させた。また蛍光免疫染色よるPGC-1alphaの細胞内局在解析を行った所、δ-トコフェロール添加によってPGC-1alphaの核内移行が顕著に亢進しており、δ-トコフェロールによってPGC-1alphaが活性化する事が明らかとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの結果より、ビタミンE同族体の一種であるδ-トコフェロールが骨格筋細胞内でインスリン抵抗性が惹起した状態でのAktリン酸化を改善ができること、さらにPGC-alphaの発現・活性を上げる事でさらにインスリン感受性も高める可能性が示唆された。そこで、最終年度では糖尿病誘発マウスであるKKAyマウスを用いてin vivoでの効果について検討を行う予定である。本研究計画は最初に提示した計画であり、平成26年、平成27年に行った研究から食品成分であるδ-トコフェロールにその効果が期待できる事が明らかになった事で初期の計画通りの検討が行える段階に至った。 実験方法としては、KKayマウス25匹を通常食を摂取させる対照群、高脂肪・高ショ糖食を摂取させる群、高脂肪・高ショ糖食にα-トコフェロールを添加した群、高脂肪・高ショ糖食にδ-トコフェロールを添加した群の4群に分け、2か月間飼育する予定である。KKAyマウスは肥満になる事で糖尿病を誘発する事から、高脂肪・高ショ糖負荷することで、平成26年度に行った研究のin vivoレベルが検討できると期待している。 飼育期間終了後、採血ならびに肝臓、各脂肪組織、骨格筋を採取し、各種マーカーを分析する予定である。特に骨格筋については、PI3及びAKtのmRNA発現量ならびにタンパク質のリン酸化、PGC-1alphaのmRNA発現量及び活性化、GLUT4のmRNA発現量を中心に分析を行いたいと考えている。
|