研究実績の概要 |
日本人の20代女性では20%以上がやせに分類され,その多さは先進諸国では際だって高い値である。このような若い女性のやせはその女性が生む子供にも影響を与えるのではないかという成人病胎児期起源説が提唱されている。母体が十分に食べ物を摂取しないと胎児は十分に成長することができず低体重となる。低体重に陥った胎児は,外界は食糧不足だから母親は食べられないと解釈し,生まれ出た後の食糧不足に対応するため,太りやすい体質に変化して生まれ出る。しかし,実際は外界は食料が溢れているので太りやすい体質で生まれた子供は生活習慣病に罹りやすくなるというのが成人病胎児期起源説である。成人病胎児期起源説は,栄養学的,生物学的,社会的に非常に大きなインパクトを有するものであり,そのメカニズムを調べることは重要である。本課題では高等多細胞生物のモデルとして使われる線虫(Caenorhabditis elegans)を使って成人病胎児期起源説の分子メカニズムを解析する これまでに飢餓を経験した親線虫から生じた仔線虫では脂肪蓄積量が増えることを見いだした。平成27年度では脂肪蓄積量の増加が,脂肪代謝関連遺伝子の発現変動を伴っているかをRT-PCRで検討した。脂肪合成遺伝子としてpod-2, fasn-1, mboa-2, sbp-1,脂肪分解遺伝子としてlipl-4, hosl-1, cpt-1, cpt-2 B0303.3を選んで解析した。その結果,飢餓を経験した親線虫から生じた子線虫では,脂肪合成遺伝子群発現量が上昇傾向,脂肪分解遺伝子群が抑制傾向を示した。この結果は飢餓を経験した親から生まれた仔線虫では脂肪蓄積量が増えるという先行研究と合致するものである。しかし,今回の遺伝子発現挙動は明確といえるほどの変動ではなかった。したがって,DNAマイクロアレイやタンパク質解析で多方面的な解析が必須である。
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