研究課題/領域番号 |
26350146
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
志村 剛 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (80150332)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 過食 / 味覚嗜好性 / ストレス / 扁桃体 / 新奇恐怖 / 味覚嫌悪学習 |
研究実績の概要 |
動物は初めて経験する味刺激に対してストレス応答の一部とみなせる新奇恐怖を示す。γ-アミノ酪酸(GABA)作動薬のムシモールをラットの扁桃体に微量注入し標的部位ニューロンを不活性化すると、人工甘味料のサッカリンを初回提示した場合、基底外側核の不活性化では新奇味刺激に対する恐怖が抑止され、扁桃体中心核の不活性化では非特異的な摂取行動の抑制をもたらした。この結果は新奇恐怖の発現に基底外側核が重要な役割を担っていることを示唆する。 アドレナリンα受容体拮抗薬のヨヒンビンをラットの腹腔内に投与することにより惹起される軽度慢性ストレス状態では高嗜好性味刺激呈示の場合に限って摂取量増加が生じるが、扁桃体の亜核を上記と同様に薬理学的に不活性化してその影響を検討した。甘味を呈しかつ嗜好性の高い経腸栄養剤(エンシュアリキッド)を連日、同時間帯に与えて摂取量が安定したところで、ヨヒンビンを腹腔内投与すると、エンシュアリキッドの摂取量が有意に増加したが、その処置に先行して扁桃体基底外側核をムシモールで不活性化すると、ヨヒンビンによる摂取増加効果が消失した。中心核の不活性化では特異的な効果はなかった。この結果は、ヨヒンビンによる摂取増加の基盤として扁桃体基底外側核の健常な機能が必要であることを示す。 動物はある味刺激を摂取した後で内臓不快感を経験すると、以後その味刺激を忌避するようになる(味覚嫌悪学習)。不快経験をもたらした味刺激は動物にとって強いストレッサーとなる。恐怖情動行動への関与が示唆されている中脳吻側内側被蓋核をイボテン酸により破壊したラットでは、味覚嫌悪学習の獲得は健常群と同じく強固になされたが、条件味刺激を連日呈示すると摂取量が健常群より早く増加し、嫌悪記憶の消去が早いことがわかった。この結果は吻側内側被蓋核が味覚に基づくストレス事態への対処行動にも関わることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
27年度の研究実施計画のうち、前年度に開発した慢性ストレス誘発による過食モデル事態での扁桃体に関する行動薬理学的実験については、ほぼ当初の予定どおりに研究が進行し、派生的に新奇恐怖や味覚嫌悪学習などのストレス状況での扁桃体の役割に関する理解が深まった。しかし、神経解剖学的実験は着手したものの、現在のところ見るべき成果を得ていない。 以上の理由から、上記の評価区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
行動薬理学的実験については、扁桃体におけるCRFとその他の神経伝達物質が軽度慢性ストレス状況下での過食に如何に関わるかを、引き続き検討する。これと並行して過食行動に関与する扁桃体の入出力経路を順行性・逆行性トレーサーや脳画像計測によって明らかにし、扁桃体を枢軸とするストレス性過食の神経回路を同定していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおむね当初予定通り執行したが、消耗品の需給の関係で10%程度の未使用が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
計画最終年度なので未使用額を当初計画に合算して早期に使用する。
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