研究課題/領域番号 |
26350163
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研究機関 | 京都光華女子大学 |
研究代表者 |
吉田 香 京都光華女子大学, 健康科学部, 教授 (10336787)
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研究分担者 |
魏 民 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70336783)
北村 真理 武庫川女子大学, 生活環境学部, 准教授 (40369666)
寺本 勲(木俣勲) 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20153174)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微量元素 / 動物行動試験 / 過剰摂取 / 高脂肪食 / 脳神経障害 / モニタリング / マウス |
研究実績の概要 |
近年、種々の健康食品を常用する人が増えており、食品との合わせた摂取により、微量元素の過剰摂取が起こる可能性がある。微量元素の長期に渡る過剰摂取と欧米型食生活が老人性認知症に与える影響が注目されているが、その詳細は不明である。また、摂取量を正確に把握する必要があるが、その簡易なモニタリング指標の開発は行われていない。 今年度は、まず、アルツハイマー病との関連性が指摘されているZnについて、加齢マウスへの単独投与により行動毒性が現れるかを調べた。すなわち、26週令雌マウスにZn 0ppm、200ppmおよび500ppm水溶液を飲料水として30週間自由摂取させたのち、Y字型迷路試験、新奇物質探索試験およびステップ・スルー型受動的回避学習試験を行った(受動的回避試験は長期記憶、Y字型迷路試験は短期記憶、新奇物質探索試験は視覚的認知記憶を調べる試験である)。その結果、新奇物質探索試験および受動的回避学習試験では、用量依存的に記憶能の低下が認められた。以上の結果より、 Znは長期記憶および視覚的認知記憶に用量依存的に影響を与える可能性があることが示唆された。現在、高脂肪食下でZn200ppm連続投与が加齢マウスの記憶学習能力低下を加速するかを調べている。 ミネラル・微量元素の摂取量のモニタリング指標として尿中排泄量が利用できるかを調べた。その結果、摂取量に対する尿中排泄量の割合はMg、Ca、Znで高く、Fe、Cu、Mnで低かった。摂取量と尿中排泄量の間で相関が認められたのは、Mg、Znであった。Feでは弱い相関が認められた。 Caco-2細胞を用いてZnの腸管吸収を調べるに当たり、ヒト腸管膜に存在するZnトランスポーターがCaco-2細胞にも存在するかを確認した。その結果、Caco-2細胞にもZnトランスポーターが発現したため、腸管吸収モデルとして使用できることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、まず、Znの脳神経障害への影響を調べるため、26週令雌マウスにZn 0ppm、200ppm、500ppm水溶液を30週間連続飲水投与し、記憶学習能力を調べた。その結果、Znは長期記憶および視覚的認知記憶に用量依存的に影響を与える可能性があることが示唆された。次に、高脂肪食の影響を調べるため、26週令雌マウスを通常試料を与える群と高脂肪飼料を与える群に分け、Zn 0ppm、200ppm水溶液を連続飲水投与している。30週間投与後、高脂肪食におけるZn連続摂取が動物の記憶学習能力に与える影響を調べる予定である。また、用量依存性を調べたZn 200ppmおよび500ppmの30週間投与群について、現在、記憶能の低下と脳神経変性の関連性およびZn蓄積部位を調べるため、脳組織のHE染色および免疫組織化学染色を行っている。以上のように、動物実験は順調に進んでいる。 モニタリング指標の開発においても、Mg、Znで尿中排泄量と摂取量の間に相関が認められることが示されており、指標として使用できる可能性が出ており、順調に進んでいる。 Caco-2細胞を用いてZnの腸管吸収に他の微量元素や食品成分の共存が与える影響を調べる実験においても、ヒト腸管膜に存在するトランスポーターがCaco-2細胞においても発現が認められたため、今後、順調に実験に進めることができる。
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今後の研究の推進方策 |
加齢雌マウスを高脂肪食を与える群と通常食を与える群に分け、それぞれにZn単独またはMn、Fe水溶液との組み合わせ飲水投与を長期間行った後、ステップスルー型受動回避試験、Y字型迷路試験、新奇物質探索試験などにより記憶学習能力に与える影響を調べる。この結果より、高脂肪食摂取下でのZn単独またはMn、Feとの組み合わせ投与が記憶学習能力へ与える影響を考察する。また、脳組織のHE染色および免疫組織化学染色により、タウ蛋白質のリン酸化、ミクログリアの活性化、アミロイドβ蛋白(Aβ)の凝集等を調べ、脳神経の変性を調べる。さらに、その脳神経変性部位とZn、Mn、Fe分布および酸化ストレス部位の一致も調べる。以上の実験により高脂肪食下での微量元素の過剰摂取が記憶学習能力にどのような影響を与えるかを解明し、さらに脳のどの部位の障害が記憶・学習障害と関連しているかを考察することを目指す。 尿中微量元素量測定による微量元素摂取量のモニタリング調査の開発では、ヒトにおける微量元素摂取の指標として、尿中微量元素量測定の有効性を調べていく。すなわち、摂取食品群によって尿中排泄量が影響を受けるかを調べていき、1日尿中排泄量が消化・吸収率を加味したミネラル・微量元素摂取量のモニタリング指標として使用できる可能性があるかを調べる。さらに、共存成分による腸管吸収の違いを調べる。 共存成分によるZnの腸管吸収の違いについては、in vitro でCaco-2細胞を用いて実験し、Mn、Feなどの微量元素や食品成分の共存がZnの腸管吸収に与える影響を調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった尿前処理用の分解装置(プログラム昇温方式酸分解システム)を使用しなくても代替方法で尿の前処理ができたこと、また、マウス用の高脂肪飼料が当初予定金額より価格が低かったため、次年度繰越使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越使用額を使い、マウスの記憶・学習行動試験としてこれまで行っているステップスルー型受動回避試験、Y字型迷路試験、新奇物質探索試験に加え、さらに有効な手法であるフィアコンディショニング試験を行うため、DVTrackビデオトラッキングシステム用の装置および追加ソフトを購入する予定である。これら種々の動物行動試験により幅広く記憶・学習行動評価を行い、微量元素の過剰摂取による脳神経障害が脳のどの部位に起こっているかを推測していく予定である。
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