研究実績の概要 |
1年目は、モデルに焦点を当てた数学教育の世界的な傾向について分析した.その結果、大きく2つの傾向があることがわかった.一方は,Pollak, Burkhardt, Burghesを中心とした英語圏における実用的傾向で,もう一方は,Freudenthalを中心としたローマ圏における科学-人間的傾向である.実用的な傾向では,実利的,実用的な目標,すなわち,実世界の問題の解決のために算数・数学を用いることができる児童・生徒の能力を全面に出している.一方,科学的-人間的な傾向は,科学としての数学,人間的で教育的な考えに関心をもっている.すなわち,「数学教育は,数学者が導き出した最終的結果を出発点とするのではなく,活動としての数学の中に出発点を見いだすべきである」(Freudenthal, 1968,1973)という考えを基に,科学としての数学とその構造を人間の営みとして導く能力に焦点を当てている.そして,この考えは,Treffers(1987),Streenland(1991),De Lange(1996),Gravemeijer(2007)らによるRME理論として継承されることになる.この歴史的な二つの傾向において,モデルの捉え方が違うことに着目する必要がある.実用的傾向では,現実モデル,数学的モデルといった具合に,算数・数学の世界と算数・数学外の世界を明確に分離し,実世界の問題場面を翻訳したものをモデルと呼んでいるのに対し,科学的-人間的傾向では,モデルを相対的に捉え,数学的表現を可能にするために必要不可欠となる媒介物をモデルとして捉えていることがわかる.両者では共に数学化が強調されているわけだが,前者では,実世界の問題から数学的モデルをつくるための数学化を強調しているのに対し,後者は数学化するために必要不可欠となる媒介としてのモデルを強調している.
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