研究課題/領域番号 |
26350190
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
中田 隆二 福井大学, 教育地域科学部, 教授 (80143931)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化銅 / 電気化学 / 電池 / 理科教材 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、前年度得られた、金属銅の加熱酸化による酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)の生成挙動に対する電気化学的な定量的追跡手法の開発検討の結果を受けて、酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)の選択的生成条件を探った。その結果、酸化銅(Ⅱ)の生成は、比較的容易であるが、酸化銅(Ⅰ)については、電気炉も含め、手軽な装置等では実現が困難なことがわかり、別法として、フェーリング反応を利用した湿式合成法について、検討を開始した。一方、酸化銅(Ⅱ)についても、金属銅粉末を加熱した際に粒子が融着し塊状となる問題も生じており、解決策を検討している。 ところで、学校現場で、理科で学んだ種々の知識を活かし、自分たちで電極材料を作り上げることは教育的には重要であるが、一方で、市販の試薬を使った、簡便な電池作成法についても、授業時間による制約を考えた場合、想定しておく必要がある。そこで、市販の酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)粉末を使った、電池の作成も並行して試み、不完全ではあるが、電池として機能することは確認し、今後、酸化銅の表面活性化処理等についても、検討を進める必要があると考えている。なお、学校現場で簡便に利用できる教材として広く知られている「マイクロスケール実験」を使った電池の実験についても他の研究者と協力し、今年度はプラスチックを使った実験を参考にしつつ、検討を行った。 一方、もう一つのテーマである「放射線」に関しては、従来、報告されている代表的な実践例について追試も含め検討したが、定量性のあるデータを求めることは、実験条件をかなりコントロールしないと困難であることがわかった。学校現場での利用を考え、より簡便で、定量的なデータを得る条件について検討中である。また、関連する学会での研究報告会やワークショップに参加し、放射線教育の実際例について情報を収集したり、現場の教員との情報交換も行いながら、その応用についても検討を始めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
金属銅の加熱酸化による、酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)の生成挙動について、電気化学的に定量的に解析する手法については、平成26年度の検討で見通しが得られたので、今年度は、その結果をもとにデータを収集し、電池材料として有用な酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)粉末の製造と、それを使った電池の性能についての検討を進める予定であった。しかしながら、電気化学的定量法を適用する際、加熱酸化後の試料の前処理として酸による酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)の溶解に際して、定量性を左右する重大な問題が存在することが明らかとなった。それは、塩酸溶液中での、酸化銅(Ⅱ)の溶解によって生成した銅(Ⅱ)イオンと金属銅との間の均等化反応の進行である。均等化反応の可能性については想定はしていたが、同様の酸化銅の溶解を扱っている既報でも重大な問題とは認識されておらず、我々も過小評価していたところである。しかしながら、実際には、その反応は非常に速く、無視できないことから、酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)の分別定量法について、再度、検討し直す必要が生じ、その対応に時間を取られたことが、本研究の進行の遅れの大きな要因である。その後の検討で、ひとまず、分別定量については、一つの分析スキームを示すことができたが、操作が煩雑でかなり時間を要する分析法となったため、これも研究の進行に負の影響を与えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初は、実験データを積み重ね、「金属銅の加熱酸化に伴う酸化銅の分別定量」について、まずは論文としてまとめる予定であったが、「分別定量法」が電気化学的手法以外の煩雑な操作を伴うことから、難しくなっている。今後、酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)の分別溶解について、より簡便かつ定量的な方法を探索し、検討は続けていく予定である。 また、市販の酸化銅粉末を材料とした、電池の作成とその機能評価については、条件を変えながら試作し、検討していく予定である。 なお、理科授業で酸化銅を用いた電池の作成だけを考えれば、粉末状にこだわらず、銅板の表面だけに酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)を生成させ、演示実験ないしは生徒実験用教材として確立させ、授業案に組み込んで提案することもできる。銅板表面だけであれば、いずれの酸化銅(Ⅰ,Ⅱ)についても部分的な選択的生成は現時点でも可能であり、さらに(放電)容量等についての知見が得られれば、エネルギー教育という点からは有用な教材となりうると期待される。 一方、放射線教育においては、教材以上に、教員がどのような視点に立って授業を行うかが課題であり、理科教育というよりは、むしろ防災教育という観点から取り組まれることも多い。とはいえ、防災教育においても、やはり目に見えない放射線の特性をどのように認識させうるか、ということは重要な視点と思え、より適切な教材開発の持つ意味はあろう。従って、当初の方向性、すなわち、光の学習と対応させ、可視光等よりエネルギーの大きい電磁波として意識させることを追求する必要があると考え得ている。その意味で、化学的線量計の利用についても、再検討したい。 いずれのテーマについても、現場の教員との意見交換等、情報収集に努め、実際の授業での実践につながるような研究を進めていきたいと考えている。そして、最終年度でもあり、得られた結果をとりまとめ、具体的な成果物として公表していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述の「現在までの達成度」でも記したように、酸化銅の分別定量法についての再検討が必要となり、また、今年度検討し確立した分析法も煩雑な操作を伴うため、種々検討の進行が遅れ、予定していた設備や薬品の購入も控えることになった。また、設備の点では、既存のパーソナルコンピュータが旧式であり、文書作成やデータ処理等の使用に際して、不都合が生じてきたこともあって、新たに購入したが、それ以外の測定器等は購入を見送った。以上、全般的には研究の達成度がやや遅れたこともあり、結果として予算が残り、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の「今後の研究の推進方策」にも記したように、最終年度である平成28年度は、自作の電極材料の利用にこだわらず、例えば平成27年度に協力したマイクロスケール実験(雑誌論文の記述参照)の利用も含め、簡易で有用な教材開発を進める。そのために必要な器具や薬品の購入を積極的に進め、必要な予算として使用していく。 特に放射線測定については、研究の進捗状況との関係で、この二年間、測定器の購入を見送っていた。しかし、同様の機器が同じ講座にあり、これまでも借りて自由に使用できたことから、測定器の購入に予算は充てず、他の設備や薬品等の購入を考えている。 今年度も、日本理科教育学会や日本エネルギー環境教育学会等に、情報収集をしたいと考えており、そのための旅費支出としても使用予定である。
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