研究課題/領域番号 |
26350191
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三浦 裕一 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30175608)
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研究分担者 |
安田 淳一郎 山形大学, 基盤教育院, 准教授 (00402446)
古澤 彰浩 名古屋大学, 教養教育院, 講師 (20362212)
小西 哲郎 中部大学, 工学部, 教授 (30211238)
中村 泰之 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (70273208)
千代 勝実 山形大学, 基盤教育院, 教授 (80324391)
藤田 あき美 信州大学, 工学部, 講師 (50729506)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 系統的講義実験 / 物理学体験学習 / 高等教育 / 学生主体型実験 |
研究実績の概要 |
把握し難い物理的概念や法則を理解させるため、力学と電磁気学の分野で学生に系統的な実験を企画させ、測定結果を互いに発表して議論し、理解を深めた。例えば、慣性モーメントの概念をつかむため、さまざまな直径や形状の回転体を斜面で転がし、転がる速度の加速状況を観察させた。これまでは比較する回転体の種類や、転がす順番を教員が指定していたが、学生の自主性に任せて自由に実験させた。その結果、「慣性モーメントの大きさと形状の関係」を把握するまでの時間が延びたものの、学生が自ら考える姿勢を導くことができた。 また、セミナーで3人ずつの班に分け、身近な現象の加速度を実測させたところ、感覚とは大きく異なる結果が得られ、その原因について熱心に議論ができた。測定したのはエレベ-ターの加速度と、人の頭部が歩行時に受ける加速度である。歩行時の加速度は重力加速度g の約60%もあるのに、全く自覚されない。一方、エレベ-ターの加速度はg のわずか6%であるのに、明確に自覚できた。その原因について提出された学生の仮説は、「自発的な運動は自覚され難いのでは」、「歩行時の眼には、何らかの揺れを消す補正機能が働いているのでは」などであった。単に力学的に解釈できる問題ではないが、偶然に自ら発見した現象について考察し、議論できた意義は大きい。更に、エントロピー増大の法則を可視化する実験を開発した。拡散現象を気体格子模型で可視化する試みで、物理系の学生たちは結果を正確に予想でき、実験方法についても提案があった。 これらの結果の一部は26年度に物理学会で4回、発表した。また、開発した実験教材などをWEBサイトで公開すると共に、DVDとして関係者に配布した。WEBサイトを効果的に教育に利用する研究も進めている。さらに近隣大学から講師を招いて物理教育改善のためのワークショップを開催し、互いの実践を披露して意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでは系統的な実験を教員が決めた手順で段階的に行い、学生が推論を進める手法を実践してきた。これを発展させ、学生の主体性を発揮させるため、系統的な実験を自ら企画させ、その測定結果を互いに発表して議論することを目標としている。実践するにはいくつかの困難が予想されたが、それを改善する方法を模索しながら進めている状況であり、計画はおおむね順調に進んでいる。 この教育方法の難点の一つは、学生が試行錯誤しながら進めるために、時間がかかることである。そのため、多くの内容を含む通常の授業で実践することが困難で、実行できるテーマの数も限られる。学生の主体性を引き出すためには、明確に目標を設定し、実験教材を準備、さらに実験の途中段階で適切なヒントや忠告を与えることも必要である。完全に学生まかせた場合、目標から大きく外れる方向に進むこともあり得る。一方、過度な忠告は学生の主体性を阻害してしまう。このように、実験教材というハード面と、進展に合わせた適切な忠告というソフト面の、両方の開発が必要とされる。慣性モーメントを理解するための「転がし実験」の場合、回転体を教材として与えて授業中に実験させる方法の他、自宅で自由に実験させる方法も試みられた。 フィールド・ワークのように教室外に学生を派遣して加速度などを実測させるテーマでは、学生の積極性を引き出す効果があった。実際に行動すると、測定に支障が出る状況に直面することもある。その際、測定を困難にする要素を洗い出し、それを改善する方法を主体的に考察させることができた。エレベーターの加速度測定の場合は、移動中の振動が問題になり、その低減方法について議論された。現実の問題を主体的に解決する体験は、将来の研究活動に大いに役立つと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
26年度に得られた情報を元に、学生の主体性を生かした物理学教育の改善を進める。新たな実験と、実験教材を開発すると共に、実験の途中段階における適切なヒントや忠告の与え方と、その効果について調査研究を進める。得られた結果は適宜 物理学会で発表し、WEBサイト上で公開していく。予定している具体的なテーマの例を挙げる。 (1) 電気抵抗の温度変化する原因の考察;力学で習得した知識と対応させ、電場による電子の加速と非弾性衝突による電気抵抗の起源を理解する。試料として、極細の銅線、及び半導体であるサーミスターを使い、電気抵抗の温度変化を測定する。測定後、金属と半導体の抵抗の温度依存性が逆になる理由について、電子濃度と移動度について考察させる。 (2) 抵抗ブリッジの有用性の理解;ブリッジ回路は広く実用されている重要な電気回路であり、単なる電気抵抗の演習問題に留まらない。その価値を理解するため、ブリッジ回路と、抵抗を単一で使用した場合とを比較する。この回路は力学的には天秤に相当し、精度が高く、安定した測定ができる。また、4端子法による電気抵抗測定の利点について、実測して考察させる。そのために、あえて接触抵抗の大きい試料を使用する。 (3) 力学概念調査の結果を用いた教材開発;力学概念調査(FCI)は、世界的に行われている教育効果を客観的に測定する調査である。その結果を見ると、あらゆる集団で正答率が低い問題がいくつか存在することが知られている。そこで、すでに充分に理解し再調査する必要がない学生集団に対し、多くの人が誤解する理由を議論して考察させる。その分析を元に、誤解している集団に対し、正しく理解させるための演示実験を企画させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度には新たな物理実験を開発したものの、過去に開発した実験教材を使用して授業の展開方法を研究した分だけ、教材の開発費用を節約できた。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度の研究結果を元に、新たな教材を開発するために使用する。 実験教材の製作のための材料費や、加工費用、学生から回収したワークシートの解析に使用するPCやソフトなどの購入に使用する予定である。
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