研究実績の概要 |
天文学の分野では,すばる望遠鏡やALMA,あるいは天文観測衛星といった大型装置を利用した研究が進められ, 多くの成果を上げている.近年,これらの成果は研究機関から社会に向けて積極的に発信されるようになっている.天文分野は, 一般市民も高い関心を寄せる自然科学の分野ではあるが, 一方で天文学の学習が含まれる高校地学の履修率は,理科の他分野(物理,化学,生物)に比べ圧倒的に低い状況が続いている. 本研究では,高校での地学の開講率が低迷する中,天文学に興味・関心はあるものの高校での系統的な学習機会が得られない高校生を念頭に,分光データを用いた教材開発を行った. 今年度、主として開発した教材は太陽スペクトルの吸収線の元素同定、渦巻銀河の回転速度測定、重元素の含有量が異なる恒星のスペクトル比較、および銀河の後退速度測定の4種である.各教材ともスペクトルデータとともに解析用のExcelファイルを配布する.Excelファイルにはマクロを組み込み,解析作業の負担軽減を図っている.また天体画像処理ソフトMakali`iの利用を念頭においている. これらの教材は,身近に指導者がいない環境でも生徒自身の力で実習を進める自主学習型教材を目指しているが,開発段階での有効性を確認するため,太陽吸収線の元素同定と銀河の回転速度測定の2種については,大学教員立会いの下で高校生に対する実習を行った.実習後のアンケート結果から,太陽吸収線の同定については,参加者全員がテーマについて理解できたと回答した一方で,銀河の回転速度については,約2割が理解不足であることがわかった.またテーマの難易度については,2つのテーマとも1/4~1/3の参加者が難しいと感じていることがわかった.自主学習型教材を目指すという観点から,今後は,高校生が難しいと感じている点を整理し,理解を促進する説明等の検討を行っていく必要がある.
|