研究課題/領域番号 |
26350211
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
辻 琢人 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (70321502)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 実験教材 / 集積回路 / ものづくり / 実験実習 |
研究実績の概要 |
高専は,さまざまな制約によって現在の高度情報化社会を支える半導体デバイスのものづくり実験の実施は容易ではない.本研究は,集積回路の作製技術と集積回路に含まれる半導体デバイス及び電子回路の動作を学生が理論と実践の両面から効果的に習得することのできる実用的な「集積回路ものづくり作製実験教材」の開発に取り組んでいる. 研究代表者によるこれまでの取り組みによって,シリコン(Si)半導体デバイスを作製する上で欠かすことのできない不純物拡散層は,不純物源を含んだ液状のスピンオングラスをSi基板に塗布して熱処理するだけの非常に簡易な方法で形成できる技術を確立している.同様に,アルミニウム(Al)電極については,Alエッチングプロセスを省くことができるように,メタルマスクを使って形成できるようになっている. この2つの技術に加えて,フォトリソグラフィ及びSi酸化膜形成プロセスが構築できれば,Si集積回路の作製に最低限必要となる要素技術を全て確立できる.そこで,今年度の取り組みでは,まずフォトリソグラフィプロセスの構築を試みた.MOS電界効果トランジスタ(MOSFET)の作製で必要となる,4種類のパターンからマスクを設計し,Si基板上に所望の2次元構造が形成できるようになった.さらに,構築したフォトリソグラフィプロセスにおいては,研究代表者が設計したジグを使うことによって,顕微鏡を使うことなく,簡易的な方法でマスクの位置合わせ作業ができる. 以上の結果,Si集積回路を作製するために必要となるフォトリソグラフィプロセスを確立することができた.とくに,不純物拡散層の形成,Al電極・配線の形成,フォトリソグラフィについては,それぞれ簡略化した手法を用いることで,それぞれのプロセスが比較的容易に遂行できるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
集積回路ものづくり実験教材の構築を目指して,これまで,その実現に克服しなければならない「nMOSFET作製プロセスの簡略化」をどのようにして実現できるか検討してきた.それを実現するためには,次の2つの課題を克服する必要があったため,まずそれぞれの課題の克服を試みた. 課題1.ジグを使ったフォトリソグラフィープロセスにおける位置合わせ作業の簡略化 課題2.Al電極・配線形成プロセスでのフォトリソグラフィー,Alエッチング,及びレジストはく離プロセスの省略化 「課題1.」については,研究代表者が設計し,自作したジグを使ったフォトリソグラフィープロセスによって,顕微鏡を使わない簡易な方法でマスクの位置合わせができるようになった.その結果,チャネル長=0.5mm程度,チャネル幅=3mm程度のサイズのMOSFETを構築したジグを使ったフォトリソグラフィープロセスで作製できる見通しを得た. 「課題2.」については,形成するAl電極・配線の任意の形状がパターニングされたメタルマスクを設計し,Si基板上にマスクパターンの形状のAl電極・配線が形成できるか試みた.その結果,最小0.3mm程度の幅のAl電極・配線が形成できることが確認できた.この手法を実際にMOSFETのAl電極・配線の形成で活用することで,本来必要となるフォトリソグラフィー,Alエッチング,及びレジストはく離プロセスを一括して省略できるため,実験教材として考える場合,その手間を劇的に低減できる見通しが得られたことは,今後,取り組みを進めて行く上で必要な成果を得ることができたことは非常に大きな進展であると考えている. 以上の結果から,本研究課題の研究目的に対する本年度までの達成度は,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の取り組みによって,集積回路ものづくり実験教材を構築するにあたって克服しなければならない「nMOSFET作製工程の簡略化」という課題を解決する見通しが得られた.この得られた成果を基にして,まず単体のnMOSFETの作製工程の構築を試みる.MOSFETの作製で最低限必要なプロセスは,「1.不純物拡散層の形成」,「2.Al電極・配線の形成」,「3.フォトリソグラフィ」,「4.酸化膜の形成」の4つである. これまでの取り組みで,1から3まで確立できているので,「4.酸化膜の形成」が確立できれば,nMOSFETの作製で必要となるプロセスを全て確立される.そこで,酸化炉を使って,酸化膜形成プロセスを立ち上げる. 酸化膜形成工程を確立した後,確立した4つのプロセスを組み合わせて,サイズの異なるnMOSFETを1枚のSi基板上に作製することで,ジグを使ったマスク合わせ及びメタルマスクを使ったAl配線・電極形成によるnMOSFET作製工程の簡略化を試み,再現性良く作製できる適当なnMOSFET のサイズを見出す. nMOSFETの作製工程の簡略化の見通しが得られなかった場合は,メタルマスクを使ったAl電極・配線の形成は行わず,オーソドックスなプロセスでAl電極・配線を形成し,確実にnMOSFETを作製する方法を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の遂行には,MOSFETを作製するために多くの装置が必要な上に,シリコン基板をはじめとする,多くの半導体や金属材料,不純物拡散剤,化学薬品及びホトレジストなどが必要である.研究を遂行する際にこれらの消耗品が不足することがないように,研究の遂行状況に応じて適宜補充する必要があり,予算には幾分の余裕を見て執行してきた.そのため次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
この次年度使用額は,翌年度分の助成金と合わせて,今年度と同様に,上記の消耗品の購入などに適切に使用する予定である.
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