半導体工学を理論と実践の両面から理解することに役立てられるように,簡略化した工程を使って,集積回路を構成する重要な半導体デバイスであるMOS電界効果トランジスタ(MOSFET)を作製する実験教材の開発に取り組んだ. MOSFETの作製で必要となるn型不純物拡散層をリンケイ酸ガラスを使った簡易な方法で形成し,任意の形状のアルミニウム(Al)電極をメタルマスクを使った簡易な方法で形成できる作製工程を確立した.さらに,MOSFET及びMOSFETを組み合わせた集積回路の作製ではシリコン基板上に形成したシリコン酸化膜を任意の形状にパターニングする必要があるが,本研究課題ではフォトリソグラフィー工程でガラス乾板を使わずに市販のレーザープリンタでパターンを描いたOHPシートのフォトマスク及びシリコン基板とフォトマスクのマスク合わせを簡易な位置合わせジグを使った簡略化したフォトリソグラフィー工程を使うことによって,シリコン酸化膜を任意の形状にパターニングができる見通しを得た. このようにして構築した,これらの各工程を組み合わせた簡略化したMOSFET作製工程で,MOSFETを作製したところ,ドレイン電圧が小さい領域ではドレイン電圧の増加に従ってドレイン電流が増加し,ドレイン電圧が高い領域ではドレイン電圧が増加してもドレイン電流が飽和する典型的なMOSFETの特性が得られた.また,MOSFETを組み合わせたインバータ回路構造も作製できた. 以上の結果,比較的容易にMOSFET及びMOSFETで構成される集積回路を作製できる実験教材が開発できた.この実験教材は,MOSFET及び集積回路の作製に必要な作製工程が全て含まれており,半導体工学を技術的及び物理的に理解することに繋がる効果的な実験教材になると思われる.
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