研究課題/領域番号 |
26350222
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
田口 哲 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (60281862)
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研究分担者 |
柚木 朋也 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (00311457)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 科学教育 / 化学教育 / 科学教員養成 / 実験・観察 / 原子・分子 / イオン / 粒子 / 物質認識 |
研究実績の概要 |
理科教員を目指す学生の入学時の粒子認識は,物質は粒子(原子)でできているとの前提を基に演繹的推論だけで身につけてきたものであり,探究的な実験に基いて「直接は見えないが,物質は確かに粒子からできている」との確信に至ったものとは必ずしも言えない。そこで,科学者が粒子観を獲得するに至った歴史的実験の再現・追試を含め,「巨視的・微視的双方の視点から,実験に基いて粒子認識を深化させた理科教員」を養成するための系統的実験教材の開発を本研究の目的とした。
29年度は一つ目に,28年度までに研究した「ポリスチレンマイクロ球(PSM球)を活用した電子の粒子性の検証実験教材」の実験書を作成し,本学学生に対して本教材を実践しその有効性をアンケート結果から評価した。PSM球に対する帯電量qの測定値は,PSM球の半径rが大きくなるほど低下し,電気素量eの整数倍に近づく傾向が見出されていたが,qの測定値の再現性,実験時間等を考慮した結果,r=0.5125 μmのPSM球で実践を行なった。その結果,PSM球へのqの離散性を確認できかつe整数倍に比較的近いqの測定結果が得られ,大部分の学生は電子の粒子性を実感したとアンケートに回答した。
二つ目として,イオンの実在認識の強化を図る実験教材として,当初計画していた「電場下でのイオンの移動速度の測定」よりも深い探究が行える「化学カイロと備長炭電池の比較によるエネルギー変換に関する探究型実験教材」を研究した。研究の結果,化学カイロは,金属粉末が空気中の酸素によって直接酸化して発熱するといったモデルが一般的に考えられているが,むしろ備長炭電池に近い「局部電池モデル」(金属粉末が電解質溶液に溶解し,その再放出された電子が金属粉末から活性炭側に移動して,活性炭表面でこの電子が空気中の酸素と水と反応することで水酸化物イオンが生成する)の方が妥当であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「ポリスチレンマイクロ球(PSM球)を活用した電子の粒子性の検証実験教材」については,研究計画において,28年度までに教材を完成させて29年度は本教材を実践し,PSM球に帯電した電気量の量子化と電気素量の値の点からの評価・改良を行う計画であったが,ほぼ計画通りに研究を進捗できた。すなわち,学生に対する実践結果からもPSM球のqの離散性(量子化)を確認でき,電気素量eの整数倍に比較的近いqの測定を行うことができた。また,実験後のアンケートの自由記述の結果からも,本実験教材の実践を通して,学生は電子の粒子性を実感できたことを確認した。 ただし,測定対象のPSM球をPCモニター上で見つける際の難しさ,実験に要する時間のばらつきが各測定グループでみられたので実験方法等をさらに検討する必要があり,「おおむね」順調とした。
「化学カイロと備長炭電池の比較によるエネルギー変換に関する探究型実験教材」については,より探究的な教材を開発するため当初の29年度研究計画から変更した内容である。化学カイロは,金属粉末が空気中の酸素によって直接酸化して発熱するといった一般的に考えられているモデルよりも,むしろ備長炭電池に近い「局部電池モデル」が妥当であることを,電解質溶液(塩化ナトリウム水溶液)の濃度が発熱挙動に与える影響,電解質溶液として塩化ナトリウム・塩化カリウム・塩化リチウム水溶液を使用した際の発熱挙動の比較,活性炭の代わりにグラファイト粉末を使用した際の発熱挙動から明らかにすることができた。すなわち,化学カイロ内の化学反応にも「イオン」が関わっていると考えることができ,この教材は,「イオンの実在認識の強化」を育む教材の開発という本研究の当初の目的を実現しうるものであると判断したため,「おおむね」順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題の最終年度になるため,これまでに開発してきた「巨視的な物質認識の定着を目指す実験教材」「巨視的物質認識を微視的物質認識につなぐ実験教材」「微視的な物質認識を深化させる実験教材」を適切な実践学年の検討を含めて系統化し,理科教員養成カリキュラムにおける位置付けについて検討する。また,「化学カイロと備長炭電池の比較によるエネルギー変換に関する探究型実験教材」については,「局部電池モデル」の妥当性について更に実験で検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年度使用予定の物品費が,当初の研究計画からの変化によって,想定よりも少なくても研究遂行に支障が生じなかったため。 (使用計画) 次年度の物品費として使用予定である。
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備考 |
本研究成果に関する他の発表 田口 哲,実感を伴った物理量の理解:大気圧の測定,理数啓林,17, 20-21 (2018)
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