理科教員を目指す学生の入学時の粒子認識は,物質は粒子(原子)でできているとの前提を基に演繹的推論だけで身につけてきたものであり,探究的な実験に基いて「直接は見えないが,物質は確かに粒子からできている」との確信に至ったものとは必ずしも言えない。そこで,科学者が粒子観を獲得するに至った歴史的実験の再現・追試を含め,「巨視的・微視的双方の視点から,実験に基いて粒子認識を深化させた理科教員」を養成するための系統的実験教材の開発を本研究の目的とした。今年度は,最終年度として,これまでに開発した実験教材を発展させ,高等学校の化学を担当する理科教員の養成の観点から実験教材の開発をおこなった。
30年度は,1つ目に,Processingというプログラミング言語を用いて中和滴定をシミュレーションするプログラムを開発し,高等学校の化学教育での実践を行った。その結果,すでに実験室での中和滴定を経験したことがある学習者に対して本シミュレーションを活用した授業を行うことが中和滴定実験への理解を深めるために有効であることがわかった。本研究の成果は,理科教員養成カリキュラムでも取り入れることができるものである。
2つ目として,イオンの実在認識の強化を図る実験教材として,電解質入り寒天接触型ダニエル電池を開発した。亜鉛電極と銅電極からなるダニエル電池は,高等学校の化学だけでなく中学校理科でも新学習指導要領では取り扱われるようになる。具体的には,亜鉛電極と銅電極を含む様々な金属電極とその金属のイオンが溶けた電解質溶液とを寒天で固めた「半電池」を作成し,異なる金属電極を含むその半電池2つを互いに接触させただけで電池として機能するかどうかを簡単に確認できる教材を開発した。理科教員を目指す学生に対して本教材を用いた授業を実践したところ,金属のイオン化傾向の違いを学習者自身が探究できる教材となりうることがわかった。
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