本研究は,科学研究を社会(特に女性)にわかりやすく伝える能力をもった科学者を養成することを目的として,未来の科学者である大学院生に対する科学コミュニケーション教育プログラムを開発するものである。 平成30年度は,これまでの調査で得られたデータの分析を進めるとともに,科学コミュニケーション関連授業のシラバス分析を行い,それらの結果を2つの学会で発表した。さらに,教育プログラムの教材の一つとして,「プレゼン評価シート」と「キャリアシート」を開発・実践した。併せて,27年度調査で収集した大学院生による科学講演の①講演ビデオ映像,②スライド内容のデータを補完するため,改めて①②データを収集し,行動コーディング分析ソフトによる分析準備を進めた。 本研究で得られた主な結果は次の2点である。1)自然科学系大学院生を対象としたアンケート調査では,「科学コミュニケーション」の認知度は3割程度と低かったが,それに相当する実践経験を多く積んでいるほど,自由記述において生活や地域など「社会とのつながり」を示すキーワードが多く回答されており,社会に対する意識が高い傾向があることが示唆された。2)大学院生による科学講演を受講した中高生の「講師への注目度」を分析した結果,男子生徒は主に「声の大きさ・抑揚」に注目する傾向があるのに対し,女子生徒は男子生徒に比べ,講師の振る舞い(声の大きさ・抑揚,口調,身振り手振り,質問の仕方,目線)に満遍なく注目する傾向があることが明らかとなった。特に目線への注目は,女性講師×女子生徒の組合せの際にもっとも強くなることを示唆する結果も得られた。 受講者の講師への注目度や実際の講師の振る舞いについては,非言語コミュニケーションの性差とも関連することが推察され,特に女性にわかりやすく伝える技術に繋がる可能性があるため,この点について,更なる調査研究を進める予定である。
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