菜の花とも総称されているアブラナ類の野生群落は,主にアブラナ,セイヨウアブラナ,カラシナの3種から成る。日本全国に分布し,学校教育における観察材料としても馴染み深いことから,環境調査のテーマにも活用が見込まれる。しかし,これらの3種は互いに非常に近縁であり,特にアブラナとセイヨウアブラナの区別が外部形態からは困難な場合がある。本研究では,これら3種を分子レベルで識別するため,葉緑体および核DNAマーカーのスクリーニングに取り組んできた。 今年度は,核DNAマーカーによる変異の検出と種判別の可能性について,特に注力して検討を行った。先行研究でスクリーニングした核DNAのコーディング領域における変異の中から4領域を選び,PCR増幅断片長を比較した(SSLPマーカー)。しかし,PCR増幅断片長は解析を行った全ての試料で同じ分子量となり,外部形態から判定した種に対応する特異的なパターンなども認められなかった。次に,この4領域のPCR増幅断片を制限酵素で処理し,その断片長を比較するPCR-RFLPマーカーによる種判別の可能性について検討した。1領域は2種類の制限酵素認識部位の変異を有していたことから,合計で5遺伝子座について解析した。その結果,4遺伝子座で多型が認められ,中でも2遺伝子座は多型的で種判別への適用が期待できた。 この2領域を対象に,系統が明らかである栽培個体を基準試料として解析した結果,特に1つの遺伝子座ではアブラナ類の3種それぞれに特異的なRFLPパターンが認められた。次に,この遺伝子座を用いて野外採取個体の遺伝子型を解析した結果,基準種では認められなかったRFLPパターンが複数出現し,外部形態から同一種と判断される試料間でも変異が認められた。したがって,栽培種集団では均一なマーカー遺伝子座でも,野外群落を構成する集団内には,種内変異が存在している可能性が示された。
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