研究課題/領域番号 |
26350235
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
竹下 俊治 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90236456)
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研究分担者 |
古賀 信吉 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (30240873)
山崎 博史 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70294494)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教材研究 / 授業開発 / 理科 / アクションラーニング |
研究実績の概要 |
本研究では,教員の質の向上が求められている現在,教員や学校現場の要請に相応した支援の方策の一つとして,小・中・高等学校で理科教員が行う授業計画および教材研究から授業実践にいたるプロセスを総合的に支援し,それにより理科の教員としての資質や能力の向上を図る仕組みの構築を目的としている。具体的には,複数の授業開発をそれぞれプロジェクトと位置付け,個々のプロジェクトに対して複数の現場教員と大学教員とからなるチームが協働的に関わるアクションラーニングを実施し,より効果的な支援や研修のあり方を検討・その成果を蓄積していくものである。ここでは教材研究を主軸とし,そのプロセスにおける素材の探査,教材開発,学習活動への適用という流れにより,学習内容のみならず,その関連領域にまで理解を深め,柔軟な教材観に裏付けされた教科指導力の向上を図った授業開発を基盤としたシステムを構想している。 平成27年度は,授業開発プロジェクトの立案,授業開発の実施,およびアクションラーニングの評価・改善を行った。教材研究の題材には,発想に自由度を与え思考を柔軟にするため,前年度抽出されたキーワードの概念を拡大させ,「水」「土」「光」とした。授業開発では,既存知識の活用によって段階的な思考を促す授業づくりを念頭にプロジェクトとし,高校2年生を対象とした授業実践を行った。また,研究素材の探査,教材内容の検討や情報収集も行った。教材研究では,個々の専門領域を背景として取り組みながら,同時にお互いに情報交換することで関連領域についての理解を深めながら教材開発を行った。大学教員は,現場教員間の情報交換を媒介しながら適宜助言を与えた。授業実践は,現場教員・大学教員のTTとして実施した。これらの取り組みで抽出された課題,たとえば,情報交換の方法,検証実験の再現性,授業における探究的な仕掛けづくりなどの改善策について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画は授業開発プロジェクトの立案,授業開発の実施,アクションラーニングの評価・改善,成果の公表に加え,前年度に抽出された題材の内容的な偏りの改善を目指したものであった。このうち内容的な偏りについては,抽出された題材に関するキーワードの概念を拡大させることで対処することができた。その結果,「水」「土」「光」を題材として取り組むことができた。例えば「土」については土壌細菌の硝化作用,「光」については光合成の反応経路,および蛍光色素を用いた顕微鏡観察といった,新たな実験教材を開発・実践的検証を行うことができた。「水」については,化学や地学的な内容が主になる傾向があったものの,「土」「光」の内容を補完する題材とした扱うことができた。また,高校2年生を対象とした授業実践では,酸素系漂白剤を取り上げた探究的な授業を開発・実践した。これは身近な素材を用いた化学の実験教材であると同時に,生物的な側面からも関連させることが可能であり,今後新たな方向性を持たせた展開が期待できる素材を発掘できたと言える。さらに,「光」については観察方法のこれ基本原理に関連しており,その知見を活用した観察・実験教材の開発も行うことができた。これらの成果として,研究論文等により5編,学会発表等により19件を公表した。 以上のように,いくつかのキーワードを元にして発想を拡大させ,それらを関連づけることで新たな素材が見出されるように,連鎖的に研究が展開されていおり,平成27年度の研究は,おおむね計画通りに進めることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,前年度に明らかにされた課題を改善した上で,新たに授業開発プロジェクトを立ち上げ,実施する。題材は「水」「土」「光」から派生させて着想したもの,また複数を組み合わせたものとする。終了後は再び評価を行い,必要な改善策をとる。また,本研究による協働的アクションラーニングの一部のプロセスを現職教員の研修プログラムとして模索,部分的に試行することを構想している。また,教材とする素材の探査,学習教材としての内容の検討や,教師教育に関する情報収集も引き続き行う予定である。 改善すべき課題の一つである日常的な情報交換については,SNSの利用などについて継続して検討する。授業における探究的な仕掛けづくりについては,探究の過程を学習させるのか,実際に探究させるのか,のような目標設定を明確化し,「理科授業デザインベース構造化シート」の利用など,授業づくりの方法についても検討する。 予定している学習内容としては,たとえば「生命」の領域では,「光」「水」を関連付けた「光合成」や「発生」,「遺伝情報の発現」が挙げられる。これらは「物質」や「環境」の各領域においても関連内容が多く,より幅広い教材観が育成されることが期待される。「物質」の領域では,たとえば「水」を発展させ,その物理化学的な性質に基づき,種々の化学反応について授業の展開が想定される。さらに生体内での代謝や物理的環境要因,地学的な現象まで発想を広げることが可能である。「環境」の分野では「光」「水」「土」の全てが,直接的・間接的に教材として成立し,その背景には物理化学的要因,生物学的要因が関連しており,特に地学の授業内容においての展開が想定される。 以上の成果は,研究論文のほか,各種学会等において発表する予定である。
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