研究課題/領域番号 |
26350273
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小西 達裕 静岡大学, 情報学研究科, 教授 (30234800)
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研究分担者 |
伊東 幸宏 静岡大学, 法人本部, 学長 (20193526)
近藤 真 静岡大学, 情報学研究科, 教授 (30225627)
小暮 悟 静岡大学, 情報学研究科, 講師 (40359758)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 知的教育システム / 第二言語学習支援 / 疑似学習者エージェント / ディクトグロス / 日本語教育 |
研究実績の概要 |
本年度は協調的疑似学習者エージェントの構築技術を中心に検討した。 [1]知識と課題内状況に基づく作文能力の実現に関する検討:協調的疑似学習者エージェントと学習者が再現文の修正のため相談する際、単に自分が正しいと信じる語・活用形・語順を主張しあっても学習に役立つ議論にはなりにくい。なぜそれが正しいと考えられるのかの理由について議論できることが重要である。このようにある表現を用いる理由を協調的疑似学習者エージェントに認識させるために、課題文内の状況を考慮した文生成のための知識の表現方法を開発した。またこの知識に基づいて正しい表現を生成する機構、および誤った表現を意図的に生成する機構を開発した。 [2]Focus on Formのための対話戦略ベースの構築に関する基礎的検討:協調的疑似学習者エージェントは学習者との協調作業を通じて、課題文に含まれる学習目標言語形式に関わる文法知識に意識を向けさせることが望ましい。そのための対話戦略として、以下の基礎的戦略を開発した。[2-1]学習目標言語形式に関する学習者の誤りを指摘するとともに、上記[1]で開発した知識を用いてそれが誤りである理由を説明する。[2-2]学習目標言語形式を用いた表現を独力で正しく再現できた学習者には、[1]の成果を用いて協調的疑似学習者エージェントが誤った表現を意図的に生成し、それが誤っている理由を学習者に説明させる。 [3]理科系の対象領域におけるTeachable Agentの構築と教えることによる学習支援システムの開発:当初の計画にはなかったが、第二言語学習の分野のみでは学習者とエージェントの対話パタンが限定されるおそれがあるという考えに至り、高校化学を対象として、疑似学習者エージェントに対して学習者が対話的に誤りを指摘することで学習するシステムを試作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究業績の概要において、当初の予定にはなかった「[3]理科系の対象領域におけるTeachable Agentの構築と教えることによる学習支援システムの開発」を行い、簡単な評価実験も行って学会(電子情報通信学会教育工学研究会(ET))にて発表できる水準まで達したという点は、本研究の適用範囲を第二言語学習以外の分野にも拡げうる可能性を示唆するものであり、当初の研究計画以上の成果を挙げたものといえる。しかしながら、当初の計画ではTeachable Agentとしての知識獲得機構に関する検討を行う予定であった。これは、上記研究計画の概要における[2-2]の状況で協調的疑似学習者エージェントが学習者から文法知識の説明を受けた際、それを文法知識と照合して妥当性を判定し、正しければそれを取り入れて作文をし直す機構を開発するというものである。本年度の検討では、この機能を一般性を持つ形式で実現することが困難であったため、作文のし直しについては学習者から獲得した知識ではなく、あらかじめ与えられた知識を用いるよう簡便化した。これは全体として稼働するシステムを構築し、予備的な評価実験を近日中に可能にするための判断であったが、実用上は大きな問題にならないと見積もっている。 以上のように、本年度の研究成果としては予定以上の進捗を示した部分と、予定が達成できなかった部分が混在しているため、本年度の自己評価としては「②おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で示した各項目につき、今後の研究の推進方策を述べる。 [1]知識と課題内状況に基づく作文能力の実現に関する検討:現在は文間関係(順接、逆接など)を根拠にして、再現文に含まれる接続詞の妥当性について議論する機構を開発している。今後は、これを人間関係に基づく敬語使用の文法に拡張する予定である。敬語については日本語学習の中で学習者が困難を感じやすいものであるため、これを実現することにより有用性の高いシステムとなることが期待される。 [2]Focus on Formのための対話戦略ベースの構築に関する基礎的検討:上述のように現在までに開発した基礎的戦略は、学習目標言語形式に関する学習者の誤りを指摘したり、反対に意図的に誤って重要な事項に注意を向けさせたりするものであった。これに加えて、疑似学習者エージェントとの対話を通じて学習者の学習意欲を高めるような応答も必要と考えられる。たとえば、適切な感謝や学習者の行き詰まりを解消するなどの応答である。これらについて検討を継続する。 [3]理科系の対象領域におけるTeachable Agentの構築と教えることによる学習支援システムの開発:現時点ではシステムの開発を優先し、本研究のテーマである協調的疑似学習者エージェントによる学習支援の理論的な基盤の整備が遅れている。この点について考察を深めてゆく。
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