研究課題/領域番号 |
26350273
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小西 達裕 静岡大学, 情報学部, 教授 (30234800)
|
研究分担者 |
伊東 幸宏 静岡大学, 法人本部, 学長 (20193526)
近藤 真 静岡大学, 情報学部, 教授 (30225627)
小暮 悟 静岡大学, 情報学部, 講師 (40359758)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 知的教育システム / 第二言語学習支援 / 疑似学習者エージェント / ディクトグロス / 日本語教育 |
研究実績の概要 |
[27-1]ディクトグロスによる日本語学習環境における対話型エージェントの構築に関する研究:ディクトグロスにおける再現文の修正フェーズで、学習者と文法に関する質疑応答を行うことにより疑似的に協調学習を実現する対話エージェントを開発した (雑誌論文1:International Conference on Computers in Education 2015 (ICCE2015))。これは敬語など日本語初学者が困難を感じやすい学習事項に関して、言語の使用状況(文で言及される人物の目上・目下などの人間関係など)・敬語の使用規則(目上の者の動作に言及する場合には基本的には尊敬語を用いるが、同一組織内の人間の行為について他組織の人間に語る場合にはその限りではない、など)・語彙が持つ敬語としての属性(「おっしゃる」は尊敬語、「申し上げる」は謙譲語である、など)を考慮した妥当性判定エンジンと、上述の各項目について学習者の認識を問うことができるインタフェース、および学習者の主張の妥当性を判定しつつ適切な表現についての議論を行う対話エンジンからなる。 [27-2]日本語初学者のつづり誤りを対象とした誤り表現検出と訂正機構に関する研究:本研究で開発するディクトグロスシステムでは、任意の語彙が入力されうる一般の自然言語処理システムとは異なり、入力され可能性が高い語彙をある程度事前に絞り込むことができる(ディクトグロスは教材として用意された文章を聞き取って再現する活動だからである)。このことを利用し、入力される可能性が高い語彙との綴り・音韻上の類似性をDPマッチングなどの手法で判定し、一定の近似性が認められたならば綴り誤りであると判定する機構を開発した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はディクトグロス学習における協調学習のパ-トナーの役割を果たす対話エージェントの開発を主要な目的としている。協調学習の実現のためには、このエージェントは、学習者と異なる再現文を作成し、その違いについて学習者と議論する能力が必要となる。この議論は、双方が再現した文が文法的になぜ妥当であるかという点にまで言及できなければならない。しかしこれは対話状況・文法・語彙の持つ性質など多様な観点から総合的に判断することが必要であるため、実現には複雑な機構が必要となる。平成26年度よりこの機構について開発を進め、26年度には知識表現などの基本手法を構築した。これを受けて平成27年度にはこの基本手法に基づいて実際に学習者と対話できる機構を構築し、上記の中期的目標を達成した[研究成果27-1]。この成果はコンピュータ利用教育に関する歴史ある大規模な国際会議である International Conference on Computers and Education 2015(ICCE2015)に採択されており、国際的に高い評価を受けているといえる。また研究成果27-2は、開発されたシステムを今後実教育現場における日本語教育に使用するために必須な綴り誤りへの対応を可能にするものであり、実用のための有用性は高いと考えている。 以上の点より、本研究は基盤技術ならびに応用面の双方から進捗が認められていることから、順調に進展していると自己評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度に入り、第二言語教育に携わる教員からの意見聴取や、人間の学習者どうしのディクトグロス学習の実践報告などから、ディクトグロスにおける学習者どうしのコミュニケーションの学習効果について新たな知見を得ている。それは、単に自己の再現文の正しさを主張しあうことよりも、お互いが教えあうことによる学習効果が高いということである(一般的にはLearning by Teachingと称される)。平成27年度までに開発した協調的学習者エージェントではこの教えあいという側面は実現されていなかったため、今後はこの種のコミュニケーションが可能となるような対話能力をめざす。現在のエージェントが可能な対話との差異となる要因は以下のようなものであると考えている。(1)対話相手がどのような誤解に基づいて誤った再現文を作成しているか、その原因を再現文に含まれる誤表現から推定する能力。(2)わざと誤った再現文を作成し、それを学習者に見せて、エージェントが犯している誤りを推定させるような対話インタフェース。(3)教えあいの中で、学習者の貢献に感謝してみせるなど、教えあいに対する学習者の意欲を高める対話戦略。(4)教えあいが行き詰まった場合に備えて、適宜必要な助言を与えるメンターの役割を果たすエージェント。今後はこれらの考えに基づき、システムの能力の拡充をめざす。 また以上に加えて、申請者らの所属する日本語教育カリキュラムの中で開発した学習支援環境を活用するための授業デザイン(もしくは自習方法デザイン)にも着手する予定である。
|