研究課題/領域番号 |
26350296
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
山岸 秀一 広島工業大学, 情報学部, 教授 (10609902)
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研究分担者 |
松本 慎平 広島工業大学, 情報学部, 准教授 (30455183)
加島 智子 近畿大学, 工学部, 講師 (30581219)
青木 真吾 広島工業大学, 情報学部, 准教授 (80364024)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プログラミング / スキル標準 / 視線追跡 / 包絡分析法 |
研究実績の概要 |
本年度においては,学習者の評価指標を作成するにあたっての基礎データ収集を行った.プログラミングの技術要素を明確化し,各要素の習熟度を評価のための学習教材の開発とスキルチェック表を開発するため,プログラミング言語の文法のみでなく,アルゴリズムやその他のプログラミングの能力に関わる項目を引き出すための技能評価テストを作成した.技能評価テストとして,Denhadiらによる報告を踏まえた上で作成した「プログラミング基本素養テスト」,また,Denhadiらのテストに分岐・繰り返しを加えて発展させた「プログラミング経験者用素養確認テスト」を構築した.両テスト共に,情報学を専攻する大学1年・2年次生100名程度を被験者として,回答履歴データを収集し電子化を行った.なお,被験者個々の学習に関する姿勢を確認するためのアンケート調査も行っている.加えて,学習者のプログラミング技能項目に関するスキルチェックを行うための学習教材の開発を行い,Moodle上において回答履歴データを収集できるようにした.並行して,C言語の読解学習を対象としたWebベースの自学学習支援システムを構築した.このシステムのプログラム読解問題は,最小単位のモジュールを取り上げ,入力,出力,処理の中で不足部分を補うコード補完形式の問題であり,技術要素に応じた思考力を養成できる.以上の学習教材では,正解と間違えの判断を行うことは容易であるが,同じ間違えでもレベルが異なることが考えられる.そこで,プログラミング技能の獲得は、学習経験に基づく論理的思考に強く関連する点に着目し、この蓄積経験が強く表出される眼球運動に注目し,アルゴリズム・プログラミング読解過程における視線の動作を分析した.学習者の視線を計測し学習者の思考パターン分類を行うことで,試験では測れない経験や要素技術に対する理解度の差を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると評価した理由について,以下の観点から説明する.まず,学習者の理解度・スキルを評価するための多くの基礎データを集めることができた.研究代表者らは,プログラミング・アルゴリズムに関係する講義を複数担当しており,これらの中ではFDの一環として教育の情報化に積極的に取り組んでいる.教育の情報化により授業改善を図りながら,本プロジェクトと関連させて,学習者の活動データを収集できるような仕組みを構築できた.具体的にはMoodleのデータベース構造を解析し必要なデータを分析しやすい形で収集できるようなスクリプトの開発,Moodleと連携したプッシュ学習環境の構築,プログラミング自学学習環境の構築,以上を達成した.研究代表者らは各学年100名規模の被験者のデータを追跡可能であり,3学年分のデータ収集に成功した.データについては,各講義の中で小テスト形式で与えられた項目反応データを収集したものであり,分析しやすいよう全て電子化させている.次に,プログラミング技能について,眼球運動の観点から分析を試み予備データを収集すると共にプログラミング読解過程中の視線解析に特化したソフトウェアの開発を達成させた.プログラミング読解過程の分析の前段階として,アルゴリズム理解の過程を調査した.アルゴロジックと呼ばれるソフトウェアを用い,提示されたアルゴリズムで与えられた目的を解決可能かどうかを判定する際の視線運動のデータを集めた.眼球運動計測には,Tobii Technology社製X2-30アイトラッカーを使用した.分析の結果,プログラミング成績の上位者,中位者,下位者の3グループでパターンが存在していることを明らかにした.同様に,プログラム読解中の被験者の眼球運動を分析した.その結果,スキルに応じた注視箇所の差違を確認し,Denhadiらが述べた知見との一致を確認した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度においては,まず,学習者の評価指標を作成する.プログラミングの技術要素を明確化し,各要素の習熟度を評価のための学習教材の開発とスキルチェック表を開発する.そして,スキルチェック表に基づいて既に収集されたデータの分析を行う.ここで,プログラミング言語の文法のみでなくアルゴリズムやその他のプログラミングの能力に関わる項目を引き出す作業を行う.次に,アルゴリズム・プログラミング読解過程の視線データの収集を進める.学習者の視線を分析することにより,各設問に対する答えを得るまでの考察の過程を明確化する.試験では測れない経験や要素技術に対する理解度は,学習者の視線を計測し学習者の思考パターン分類を行うことで明らかになると考えており,多くの被験者データを収集すべきであると考えている.視線を計測して得た学習者の思考パターンは,要素技術に対応した教示法作成に活用される.これまで問題の解説は教員による熟練者観点からの説明のみに依存していることが,フォローが困難な学習者層が存在し続ける原因となったと仮定している.よって,経験レベルに応じて技法は変化すべきものであり,熟練の技を初学者に説明することはギャップが存在し,経験レベルが浅い層は,そこから少し高い層の技法を真似る(視線追跡)ことでステップアップを図ることが重要ではないかとの考えのもと,教示法を設計し,学習効果を定量的に明らかにする.視線解析と共に,学習者層同士の定義を厳密にし,同時に学習者層同士をパスにより関連付ける.各技術能力差のある学習者を多次元のベクトルを基にグループ化する.グループごとに目標(優位集合)を定め,目標に応じた教示法を提案することを目指す.その手法として包括分析法(DEA)モデルを用いる.これにより従来とは異なり多くの目標が設定可能となり,各学習者の技能に応じた目標を設定できると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度12月に開催されたThe Third Asian Conference on Information Systemsに研究代表者も参加する予定であったが,学内業務により不参加となったため残額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画として,研究成果を継続して国際的に発信していくために当初参加を予定していなかったThe 4th Asian Conference on Information Systemsに参加を予定し,そのための予算として利用することを考えている.また,被験者データ解析を滞りなく進めるための人件費に活用したいと考えている.
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